国際人権(自由権)規約委員会の総括所見に対する会長声明


国際人権(自由権)規約委員会(以下「委員会」という。)は、2022年11月3日、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)の実施状況に関する第7回日本政府報告書に対して、同年10月13日、14日に行われた審査を踏まえ、総括所見を発表した。


委員会は前回の審査から今回の審査までの8年間に制定・実施された、第5次男女共同参画基本計画(2020年)や法的措置、男性と女性の婚姻開始年齢を同じにするための民法第731条改正、性犯罪に関する刑法の一部改正、取調べの録画の義務化を進める内容の刑事訴訟法の改正、外国人技能実習の保護に関する法律制定(2016年)、矯正医官の兼業及び勤務時間の特例等に関する法律制定(2015年)について、前向きに評価した。


その上で、日本の人権状況の全体を改善するための制度的な措置については、個人通報制度を定める選択議定書の批准、政府から独立した国内人権救済機関の設置及び包括的な差別禁止法の制定を求めた。とりわけ、国内人権救済機関については、日本政府の機関設立に向けた明確な進捗がないことに遺憾の意を表明した(総括所見4~9項)。この点はフォローアップ対象とされ、国際人権保障のための法制度の創設が、待ったなしの課題となったと評価できる。


個別的人権課題については18のテーマが取り上げられたが、従来にも増して、日本の最新の状況に即応した詳細な勧告が行われた。日本の人権状況を改善するための制度的な措置として、特に注目すべき7点に絞って以下に記載する。


1 死刑に関する問題
死刑制度について、死刑廃止又は死刑の対象犯罪数を制限する措置を採っておらず、その意図もないことを遺憾に思うと述べ、再審請求中に処刑が行われた事例があることに懸念を表明し、死刑廃止を検討し、死刑廃止に向けた世論喚起や死刑廃止の必要性に関して国民へ周知すること、対象犯罪数を減らすこと、死刑執行予定日時を合理的な時期に事前通知すること、死刑確定者の長期の独居拘禁を禁止すること、24時間ビデオ監視等処遇や刑罰が残虐、非人道的又は品位を傷つけるものとならないようにすること、再審請求や恩赦請求に執行停止の効果を認めること等を勧告した(同20、21項)。


2 刑事手続と刑事被拘禁者の処遇
起訴前の保釈、逮捕時からの国選弁護人の弁護を受ける権利、取調べの時間的制限、取調べ期間の制限と逮捕前を含む全事件・全過程の録画、マンデラルールに沿った医療の提供、独居拘禁の更なる削減、受刑者の選挙権などについての制度の見直し等を勧告した(同26、27項)。


3 ジェンダー平等
民法第750条が実際には女性に夫の姓を採用させることになることを懸念し、社会における男女の固定的役割分担が法の下の平等に関する女性への権利侵害を正当化するために使用されないよう民法第750条の改正等を求めた(同14、15項)。性的指向に基づく差別の禁止については、公営住宅、戸籍上の性別変更、同性婚、矯正施設での扱いにおける差別的扱いの是正などを勧告した(同10、11項)。女性に対する暴力に関しては、出入国在留管理庁を含む法執行機関に対するDV対策に関する研修、教育、意識向上プログラムの更なる強化を求め、また、すべての被害者が在留資格の有無にかかわらず迅速かつ適切な援助、支援サービス及び保護を受ける権利等について勧告した(同18、19項)。


4 外国人技能実習生制度、難民を含む外国人の人権
外国人技能実習生制度等を含めた強制労働の被害者に関し、被害者認定手続の強化、独立した苦情処理機関の設置と人身売買等について効果的な捜査、加害者の起訴と適正な処罰等を求めた(同30、31項)。難民を含む外国人の人権については、3人の被収容者の死亡に言及した上で、国際基準に則った包括的な難民保護法制を早急に採用すること、医療を含む収容施設での処遇についての改善計画の策定も含め、国際基準に沿って移民が虐待対象とならないことを保障するあらゆる適切な措置を採ること、仮放免中の移民に対する必要な支援と就労活動の機会確立を検討すること及び収容期間の上限導入に向け取り組むことなどを勧告した。この勧告はフォローアップ対象とされた。


5 思想良心・表現の自由、プライバシーの権利
当連合会がこの10年間警鐘を鳴らし続けてきた監視社会化をもたらす立法と表現の自由の危機に関する諸問題について、「公共の福祉」の概念の明確化、秘密保護法及びその適用の問題(同36、37項)、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(いわゆる共謀罪法)が、テロ対策、組織犯罪対策と無関係な多数の犯罪を対象としており、表現の自由、平和的集会の権利及び結社の自由等の基本的権利を不当に制限するおそれがあるとして、法改正と適切な人権保障措置の導入等を求めた(同16、17項)。また、メディアにおける意見の多様性を促進し、メディアとメディア関係者が国家の不当な干渉を受けずに活動できるようにすること(同36、37項)、さらに、プライバシーの権利に関し、政府などによる監視のシステムと権限の強化について、プライバシーへの恣意的な干渉に対する十分な保護措置がないとして、裁判所の事前承認を求め、効果的かつ独立した監視機構が必要であることについて勧告した(同34、35項)。


6 福島原子力災害
強制避難か自主避難か、帰還したか否かの区別なく、無償住宅の提供再開も含めた支援を継続すること、福島で甲状腺ガンと診断され、あるいはそう思われる子どもが多数いるとの報告に懸念を表明し、原子力災害が被爆者の健康に及ぼす影響について評価を続け、無料かつ定期的、包括的な健康診断の実施を検討することを求めた(同22、23項)。


7 マイノリティの権利
少数民族・先住民族の女性を含めた女性の意思決定過程への具体的措置を求めるとともに(同15項)、アイヌ、琉球その他の沖縄について、伝統的な土地や天然資源に対する権利、可能な限り子ども達に母語による教育を促進するための更なる措置を求めた。また、在日コリアンに関する年金制度利用の障壁を取り除くこと、地方選挙の投票権を認める法改正の検討を求めた(同42、43項)。


今回の審査で取り上げられた諸課題は、この声明で取り上げられなかった問題を含めて、いずれも早急にその解決が求められる重大な課題である。当連合会は、日本政府が委員会の勧告について誠意をもって受け止め、その解決に向けて、立法化を含む法制度の実施や改善、研修の充実などに努力することを強く求めるとともに、それらの実現のために、日本政府に対する要請等も含めて、総括所見で示された勧告等実現のために全力で努力していく所存である。




2022年(令和4年)11月9日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治