裁判員年齢引下げに当たっての会長談話


少年法等の一部を改正する法律が2021年5月21日に成立し、附則において公職選挙法附則10条が削除されることとなって、裁判員になれる年齢の下限がそれまでの「20歳以上」から「18歳以上」へと引き下げる法改正がなされ、本年4月1日に施行された。


裁判員に選ばれるためには、毎年作成される「裁判員候補者名簿」に記載される必要があるところ、本年11月に18歳、19歳の方が初めて名簿に掲載され、2023年1月1日以降に選任されることとなる。


この年齢引下げは、国民の司法参加年齢層が一層広がるという積極的側面を持つとともに、新しく広がる年齢が18歳、19歳という若年層であることから、彼らが主体的・実質的に参加するには課題も多いと言わねばならない。すなわち、これらの者が新たに裁判員を担う心構えを持つために十分な情報の提供がなされているか、参加しやすい環境が整えられているのか等について、なお検討が必要である。


例えば、今後、現役高校生も裁判員になり得ることから、学校の対応が問われることになる。また、裁判員の経験談を聞く、模擬裁判や法廷傍聴に参加する機会を設けるなどの裁判員の選任に向けた実践的な教育も必要である。


そもそも、当連合会は、裁判員制度の導入に当たっての重要な課題として、「国民がすすんでこの制度を担うための十分な情報提供」、「誰もが参加しやすい環境整備」を掲げてきた。しかし、今般の法改正に際して、そうした情報提供や環境整備の在り方について改めて議論が交わされた形跡は見当たらない。そればかりか、憲法で保障されている被疑者・被告人の人権の確保や無罪推定の原則といった刑事裁判に関する基本的な原理について、より理解を深めることなど、国民に対して行われている情報提供や環境整備等が裁判員として主体的・実質的に参加する上で適当なものかについての検証も必ずしも十分ではない。


裁判員制度は、供述調書偏重の裁判から、直接主義・口頭主義という刑事訴訟法の本来の理念に近い「法廷で見て、聞いて、分かる」裁判への大きな転換を促した。さらに、市民感覚や健全な社会常識が事実認定や量刑の判断に反映されることにより、国民一人ひとりが統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体として、自由で公正な社会の構築に参画できる貴重な場である。若年層が当該制度に関わる意義は大きい。


当連合会は、今回の法改正を契機に、関係各機関等との連携も視野に入れ、学校教育の場等での情報提供や環境整備に向けて積極的に活動する。それと同時に、関係各機関等におかれては、この機会に、改めて国民各層が裁判員として実質的・主体的に参加するための情報提供や環境整備が十分になされているかを検証し、制度の改善に向けた取組を行うことを要望する。



2022年(令和4年)11月7日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治