生活保護世帯の子どもの大学等進学を認めることを求める会長声明


生活保護世帯の子どもが大学・短期大学・専修学校(以下「大学等」という。)に進学する場合、厚生労働省の定める通知では「世帯分離」の扱いをとり、世帯員として扱わないこととしている。そのため、世帯としてはその子どもの分の生活扶助費が減額されることとなり、子どもは奨学金やアルバイト収入で自らの学費や生活費を賄わなければならない。


一般世帯の大学等への進学率は7割(過年度卒を含めれば8割)に達しており、高校卒業後は大学等に進学している者が多数を占める実態がある。その一方で、生活保護世帯からの大学等への進学率は4割程度にとどまっており、その差を生じさせている原因の一つが上記の厚生労働省の通知に基づく運用であると考えられる。


生活保護制度のあり方を検討する社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会でもこの問題に関して議論されているが、第19回(2022年8月24日開催)の資料として公表されている「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会におけるこれまでの主な意見」によれば、大学生等に生活保護を適用することには消極的あるいは慎重な議論がなされているものと思われる。


現在の運用の前提となっているのは、高校を卒業すれば稼働能力を活用すべきであり、生活保護を利用していない一般世帯との均衡を図る必要があるとの考え方である。


しかし、大学等に進学するとその者の稼働能力を高める蓋然性が高く、長期的な視点で捉えれば、稼働能力を活用していないと評価することはできない。また、上記のような一般世帯の大学等への進学率の高さからすれば、生活保護世帯の子どもの大学等への進学を認めても一般世帯との均衡を失することにはならない。


大学等で学ぶ権利を保障するためには、給付型奨学金といった修学支援新制度等に基づく教育施策の充実によることが本来は望ましいが、現時点の給付水準はそれだけで就学を保障することができるほどにはなっていない。そのため、そういった制度の十分ではないところを補うべく、大学等に進学した子どもを世帯分離する取扱いについては見直すべきである。そのことは、大学等での就学を通じた自立の実現を支援することになり、生活保護法が趣旨とする自立の助長(1条)にも資するものである。


加えて、世帯分離について、その取扱いを見直すに当たっては、大学等の授業料や教科書・参考書代、通学交通費その他大学等での就学に必要な費用に充てられるものについては、奨学金やアルバイト等の収入を収入認定しないことなど、世帯の生活保護の継続と学業の継続を支えるために必要な措置をとるべきである。


以上のことから、当連合会は、厚生労働省に対し、生活保護世帯の子どもが大学等に進学する際に世帯分離することを定めた通知を改訂し、その子どもが得た収入を収入認定から除外する等の通知を新設することを求めるとともに、社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会において上記の方向での議論がなされるよう要望する。


2022年(令和4年)10月18日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治