自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン及び同ガイドラインを新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則の利用のために、直ちに母子及び父子並びに寡婦福祉法の改正を求める会長声明


自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「本則」という。)及び本則を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則(以下「コロナ特則」という。)の適用が2020年12月1日から開始され、1年半余りが経過した。本則及びコロナ特則は、対象となりうる債権者を金融機関等とし、債務整理を行う上で必要なときは、その他の債権者を含むこととしており(本則第3項(2)、コロナ特則第5項(2))、公的債権も対象から除外していない。


また、母子及び父子並びに寡婦福祉法(以下「母子等福祉法」という。)は、ひとり親家庭及び寡婦の経済的自立や生活意欲の助長を図り、児童の福祉を邁進することを目的として、就労や児童の就学等で資金が必要となったときに、自治体(都道府県、指定都市又は中核市)から母子福祉資金、父子福祉資金及び寡婦福祉資金(以下「母子等福祉資金」という。)の貸付けを受けることができる旨を定めている。


しかし、母子等福祉法第15条第1項は、母子等福祉資金の償還免除事由を「貸付を受けた者が死亡したとき」及び「精神又は身体に著しい障害を受けたとき」に限定しているため、債権者たる自治体が、本則による債務整理手続の償還免除事由に該当しないことを理由に母子等福祉資金債務の減免を拒否する事例が報告されている。平成30年7月豪雨災害では、自治体から「法令上、償還猶予の制度はあるが免除の制度はない」として、本則に基づく債務整理の対象とすることを拒否されており、コロナ特則においても、自治体の合意が得られずに、債務整理手続が滞っている状態にある。


本則及びコロナ特則では、全ての対象債権者から同意を得ることにより債務の減免を受けることが予定されているため(本則第8項(9))、母子等福祉資金の貸付けをした債権者たる自治体が、本則及びコロナ特則による債務の減免に応じないことによって、本則及びコロナ特則の利用が妨げられることになりかねない。


本則のこうした事例を受けて、当連合会は、2019年4月19日付け「arrow_blue_1.gif自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの利用のために母子及び父子並びに寡婦福祉法の改正を求める意見書」を公表し、被災地の復興のためには被災者が災害前の債務を合理的に整理し、生活再建・事業再建を可能にすることが必要不可欠であるとして、母子等福祉資金の貸付けについても、本則による債務の減免が可能となるように、母子等福祉法を改正することを求めた。


しかしながら、同意見書の公表から3年が経過してもなお、母子等福祉法の改正は行われず、母子等福祉資金の償還債務について、本則及びコロナ特則による利用ができない状況にある。


本則は、自然災害の影響により債務の弁済が困難となった個人債務者(個人事業主を含む。)の生活再建・事業再建を可能とすべく設けられた制度であり、コロナ特則は、かかる目的を新型コロナウイルス感染症の影響により債務の弁済が困難となった個人債務者に拡大して適用することとしたものである。


すなわち、ひとり親家庭及び寡婦に対し、その生活の安定と向上のために必要な措置を講じ、児童の福祉を邁進することを目的とする母子等福祉法の目的と共通している。


ひとり親世帯は、育児と仕事を1人で担っており、特に母子家庭世帯では、非正規雇用労働者の割合が高く、収入が少ないなどの経済的基盤が弱く厳しい状況にある中、新型コロナウイルスの感染拡大により、さらに厳しい状況におかれている家庭も多い。債務の支払猶予だけでは、現時の困窮を脱して、経済的自立や生活意欲の助長を図ることはできず、ひいては、扶養している児童の福祉を邁進することはできない世帯もある。


したがって、母子等福祉資金も、本則及びコロナ特則による債務整理を利用して減免を受けることができるようになれば、経済的困窮に苦しむひとり親世帯が、その窮状から脱する一助となり得る。


そして、自治体は、母子等福祉法の規定により本則及びコロナ特則による債務整理ができず、債務者の生活再建を妨げている現状を改善することで、債務者の実情を踏まえた生活再建に資する検討を進めることができるよう、制度を整える必要がある。


以上のことから、当連合会は、改めて国に対し、母子等福祉資金の償還債務について、本則及びコロナ特則による全部又は一部免除が可能となるよう、母子等福祉法の改正を強く求める。


2022年(令和4年)9月8日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治