死刑執行に対し強く抗議し、直ちに全ての死刑執行を停止して、死刑制度を廃止する立法措置を早急に講じることを求める会長声明


本日、東京拘置所において1名の死刑が執行された。岸田内閣が発足し、古川禎久法務大臣が就任してから、昨年の12月21日の3人に続き、半年余りの間に4人目の執行である。


犯罪により奪われた命は二度と戻ってこない。このような犯罪は決して許されるものではなく、犯罪により身内の方を亡くされた遺族の方が厳罰を望む心情は十分に理解できる。悲惨な体験をした犯罪被害者・遺族に対する十分な支援を行うことは、社会全体の責務である。


しかしながら、死刑は、基本的人権の核をなす生命に対する権利を国が剥奪する刑罰であり、近代人権思想の中で刑罰が身体刑から自由刑に見直される中で、唯一残された最も苛烈な刑罰である。当連合会は、2016年に開催された第59回人権擁護大会において、「→死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国に対し、死刑制度の廃止と刑罰制度全体の見直しを求めてきた。国際的には多くの国が既に死刑制度を廃止しており、最近では米国でも司法長官が連邦レベルでの死刑の執行を停止する指示を出すなど、世界的な死刑廃止の流れはさらに進んでいる。このような中において、本日またも死刑が執行されたことは大変遺憾である。しかも、執行された死刑囚は再審請求中であり、この点でも今回の執行は強い非難を免れない。


刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、罪を犯した者の更生により社会全体の安寧に資するものであるべきであり、本年6月に懲役刑と禁錮刑が一本化されて拘禁刑に再編する刑法改正がなされたのも、そのような「応報を主眼とする刑罰制度」から「更生と教育を主眼とする刑罰制度」への移行を意味する。しかしながら、我が国の刑法典の下で、死刑は罪を犯した者の更生を指向しない唯一の刑罰であり、拘禁刑の理念と相容れない異質なものである。


法務省は、従前から、世論調査において多数の支持を得ているとして、死刑制度の存置を主張してきた。しかし、世論調査でも、死刑に代えて導入される刑罰の内容次第では死刑の廃止も受け容れられる余地があることが示されている。また、国際人権(自由権)規約委員会等からは、「世論調査の結果にかかわらず」死刑制度の廃止を考慮するよう何度も勧告を受けているのであって、世論調査をよりどころに死刑制度の存置を正当化することは許されない。


以上により、当連合会は、本日の死刑執行に対し強く抗議し、死刑制度を廃止する立法措置を早急に講じること、死刑制度が廃止されるまでの間全ての死刑の執行を停止することを、改めて求めるものである。



2022年(令和4年)7月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治