拘禁刑等に関する刑法等改正案に対する会長声明


懲役・禁錮を廃止し「拘禁刑」として単一化するとともに、拘禁刑及び拘留に処せられた者に、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるものとする「刑法等の一部を改正する法律案」が、国会で審議中である。これは、「懲らしめ」のために罰として刑務作業の義務を課す「懲役」を廃止し、受刑者の改善更生、社会復帰を志向するものである。当連合会は、長年にわたり国内外からの批判にさらされてきた「懲役」が、ついに廃止されることを歓迎し、今回の法改正により、受刑者の真の改善更生と円滑な社会復帰が促進されるようになることを期待するものである。


現行の刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「処遇法」という。)は、「受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする」(30条)とした上で、作業を、改善指導・教科指導とともに受刑者に対する矯正処遇と位置付けている(84条1項)。作業や指導による改善更生は、それらがいかに有用なものであっても、受刑者が自発的に向き合うことがなければ、十全な効果を期待することはできない。処遇法は、正当な理由なく作業を怠り又は指導を拒んだ場合には、遵守事項違反として懲罰を科し得ることとしているが、実務上、指導を拒否したことのみをもって懲罰が科される例が極めて少ないのは、このような理由による。また、処遇要領の策定において、必要に応じ、受刑者の希望を参酌するとされていることも(84条4項)、自発性の重要性に対する認識の表れであると言える。


処遇法の制定に先立ち立法の方向性を示した「行刑改革会議提言」(2003年12月22日)は、より明確に、受刑者処遇における受刑者の自発性、自律性の重要性を示していた。すなわち、真の改善更生と円滑な社会復帰のためには、それぞれの受刑者が「人間としての誇りや自信を取り戻し、自発的、自律的に改善更生及び社会復帰の意欲を持つことが大切であり、受刑者の処遇も、この誇りや自信、意欲を導き出すことを十分に意識したものでなければなら」ず、「受刑者を管理の対象としてのみとらえ、受刑者の人間性を軽視した処遇がなされてきたことがなかったかを常に省み」ることが必要だとしていた。


このように受刑者の自発性、自律性及び尊厳を尊重する処遇理念は、拘禁刑にも当然に妥当するものであり、懲罰の威嚇により矯正処遇を強制するのではなく、可能な限り受刑者の自発性を尊重し、真の改善更生と円滑な社会復帰につなげることが強く求められる。


こうした処遇理念を実現するためには、受刑者の意欲を引き出すべく、適切な働き掛けを行うことが重要であり、そのために必要な専門性を備えた人材の確保や職員に対する研修の充実を始めとする体制の構築が不可欠である。開放的処遇、外部通勤作業、外出・外泊の促進のほか、現在の作業報奨金制度に代えて賃金制を採用し、健康保険、雇用保険、労災保険などの社会保険制度との連動に向けた取組を行うことなど、当連合会が1992年2月に公表した「刑事被拘禁者の処遇に関する法律案(日弁連・刑事処遇法案)」以来求めてきた、国連被拘禁者処遇最低基準規則等の国際基準に則った制度とするための取組を開始すべきである。


今回の改正法案には、受刑者の円滑な社会復帰を図るため、その意向を尊重しつつ、住居、医療・療養、就業・就学など必要な援助を行う規定の新設も含まれている。受刑者の真の意味での改善更生と円滑な社会復帰が再犯防止実現の前提であり、法改正後もそのような目的に資するような運用や制度改革が実現されるべきである。当連合会は、今後とも、受刑者の尊厳を尊重した処遇の実現に向け、努力を続けていく所存である。



 2022年(令和4年)5月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治