「小石川事件」再審請求即時抗告申立棄却決定に対する会長声明


東京高等裁判所第2刑事部は、いわゆる小石川事件について、2022年(令和4年)4月7日付けで、東京地方裁判所刑事第10部の2020年(令和2年)3月31日付け再審請求棄却決定に対する即時抗告申立てを棄却する旨決定した(以下「本決定」という。)。


小石川事件は、2002年(平成14年)7月31日、請求人が、東京都文京区小石川の被害者方に侵入し、被害者の口腔内に白色タオルを押し込んで窒息によって殺害し、現金約2000円在中のがま口を強取したとされる強盗殺人事件である。


確定判決の有罪認定の決め手となった証拠は請求人の自白であった。そこで、弁護団は自白の信用性を弾劾し、請求人が犯人であることに合理的疑いを生じさせる新証拠を再審請求審及び即時抗告審に提出してきた。


最も重要な争点はDNA型に関するものである。すなわち、被害者の口腔内に押し込まれたタオルは、被害者が日常的に使用していたものであったが、このタオルからは被害者と異なる別の者のDNA型が検出されていた。そこで、弁護団は、再審請求審及び即時抗告審を通じて、このDNA型が請求人のDNA型と異なること、請求人が自白どおり犯行に及んだとすれば、当然、タオルから請求人のDNA型が検出されるべきこと、そして、検出されたDNA型は、当時、被害者方に出入りしていた可能性のある関係者のDNA型のいずれとも異なり、真犯人のDNA型である可能性が高いことを示す新証拠を提出した。


その他、弁護団は、請求人が、事件当日、被害者方を物色したとすれば検出されるはずの指紋が検出されなかったこと、請求人が自白どおり犯行に及んだとすれば、当然被害者の身体・着衣から請求人の着衣の繊維が検出されるところ、それが検出されなかったこと、被害者の大腿部背面に生じた損傷が自白どおりの犯行態様であれば生じるはずがないこと等の新証拠も提出し、新旧全証拠を総合評価すれば確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じていることを主張した。


ところが、本決定は、原決定に続き、これらの新証拠を十分検討することなくその証拠価値を否定し、再審請求を棄却した。特に、DNA型鑑定に関しては、科学的知見に基づいて十分な検討をすることなく漫然と原決定を追認したものであって、その判断手法には重大な誤りがある。加えて、本決定は、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審においても適用されるとした白鳥・財田川決定を軽視しており、最高裁判所が同決定で示した再審における判断方法からも逸脱している。


本決定に対して、弁護人らは、本日、最高裁判所に特別抗告を申し立てたところであるが、本決定は極めて不当であり、特別抗告審において取り消されなければならない。当連合会は、引き続き小石川事件の再審請求を支援し、再審開始、無罪判決の獲得に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。



 2022年(令和4年)4月12日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治