改善基準告示の見直しに当たり、自動車運転者の休息時間(勤務間インターバル)を連続して11時間以上と定めることを求める会長声明


現在、労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会において、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年2月9日、労働省告示第7号、以下「改善基準告示」という。)の見直しが検討され、休息時間(勤務と次の勤務までの間の時間)についての議論が行われている。


自動車運転者は、全産業平均と比べ、年齢が高く、かつ所定内実労働時間数及び超過実労働時間数が長い傾向にある。また、2020年度の脳・心臓疾患の労災請求件数及び支給決定件数は、業種別で道路貨物運送業が一番多い。


長時間労働が横行し、過労死や精神疾患に関する労災補償請求件数・支給決定件数が高水準で推移していることから、当連合会は、2014年11月21日付け「労働時間法制の規制緩和に反対する意見書」において、長時間労働を是正するための法制度の早急な構築を求めた。さらに、当連合会は、2016年11月24日付け「『あるべき労働時間法制』に関する意見書」において、勤務開始時点から24時間以内に連続11時間以上の休息時間を付与することを求めたところである。


上記専門委員会において、休息時間に関し、使用者側委員からは、「荷種とか業務の形態別に異なる基準を設けられないのであれば、現行どおりそのまま8時間と言わざるを得ない」との意見も出されている。しかし、以下のとおり休息時間は最低でも11時間は確保されるべきである。すなわち、平成28年(2016年)社会生活基本調査結果(総務省統計局)によると15歳以上の食事、身の回りの用事、通勤等の生活に必要な時間(食事等の時間)は5.3時間となっており、1日6時間程度の睡眠を確保するためには、連続した休息時間は少なくとも11時間以上必要である。改善基準の改正によるコスト増については、運送料金への適正な転嫁の確保を図るなど、別途対策を講ずるべきであって、労働者の健康の確保を優先すべきである。


厚生労働省は、血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(脳・心臓疾患の労災認定基準)を2021年9月14日に改正し、労働時間以外の負荷要因に勤務間インターバル(休息時間)が短い勤務を追加した。また、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の衆参両議院の附帯決議は、過労死防止の観点から改善基準告示の検討、見直しを求めている。


このように休息時間の確保が喫緊の課題となっているにもかかわらず、現行どおり休息時間を8時間としたままでは過労死や精神疾患の発症を防止することはできない。


なお、現在、11時間以上の休息の確保を努力義務とし、法的義務としては9時間とする案も浮上している。しかしながら、この問題は労働者の健康に関わるものなのであるから、11時間の休息は法的義務と位置付けるべきであって努力義務にとどめるのでは不十分である。


以上のとおり、当連合会は厚生労働省に対し、改善基準告示の見直しに当たり、自動車運転者の休息時間を連続して11時間以上と定めることを求める。



 2022年(令和4年)3月18日

日本弁護士連合会
会長 荒   中