政府見解により教科書の「従軍慰安婦」「強制連行」等の記述を変更させる動きに関する会長声明


内閣は、2021年4月27日、「『従軍慰安婦』という用語を用いることは誤解を招くおそれがある」、「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である」、「朝鮮半島から内地に移入した人々(中略)について、『強制連行された』若しくは『強制的に連行された』又は『連行された』と一括りに表現することは、適切ではない」、「『強制連行』又は『連行』ではなく『徴用』を用いることが適切である」などとする2通の答弁書を閣議決定した。その内容の当否については措くとしても、その後、国会審議では、教科書における「従軍慰安婦」「強制連行」等の記述について「今後、そういった表現は不適切ということになります」等の政府答弁がなされ、さらに、既に検定済みの教科書についても教科書会社に訂正申請を勧告する可能性が示唆された。そして、同年5月には文部科学省が教科書会社を対象に臨時の説明会を開いて訂正申請のスケジュールを具体的に示すなど、訂正申請を事実上指示したと評価せざるを得ない状況となった。その結果、同年10月までに教科書会社7社が訂正申請を行い、「従軍慰安婦」「強制連行」等計41点にわたって記述の削除や表現の変更が行われた。


この一連の動きの根拠とされたのが、2014年4月の教科書検定基準改定で加えられた「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」との規定である。当連合会は、同改定について、「教科書の記載内容を時々の政権の意思によって決定できることとなり、事実上の国定教科書に極めて近くなってしまう。(中略)子どもが、多様な意見や多角的視点から見た事実を学習し、自らの自律的な判断力を育む機会を奪うことになりかねず、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げ(中略)る危険がある。(中略)過度の教育介入であり、憲法26条に違反し、教師の教育の自由、子どもの学習権を侵害するおそれがあって許されない」として、その撤回を求めた(2014年12月19日付け意見書)。


今回の閣議決定とこれに続く一連の動きによって実現された教科書内容の変更は、当連合会が前記意見書で指摘した危惧が現実化したものにほかならない。時々の政権が新たな見解を示すことで教科書の記述が変更させられるという事態は、国家(政府)による教科書内容統制と評価されるべきものであって、前述の憲法の趣旨から到底許されるものではない。


当連合会は、上記の閣議決定から教科書内容の変更に至る一連の経緯に深い憂慮を表明し、その根拠となっている改定教科書検定基準の撤回を、改めて求める。



 2022年(令和4年)2月17日

日本弁護士連合会
会長 荒   中