家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等IT化研究会報告書に関する会長談話


本年11月29日、家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等IT化研究会(以下「研究会」という。)において、報告書が取りまとめられた。研究会は、民事訴訟以外の家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等(以下「各種手続」という。)のIT化について、法制的な問題点や実務上生じ得る問題点を検討する場として立ち上げられ、法制面・実務面の問題点の整理を進めてきた。当連合会も、委員を推薦するなどして、研究会の議論に積極的に対応してきた。


報告書においては、原則として、各種手続においてもインターネットを用いて申立てができるようにすることを前提に、インターネットを用いて申立て等をしなければならない者の範囲を民事訴訟と同様とすること、事件記録を電子化すること、期日等を電話会議やウェブ会議で行うことができるようにすること、一定の場合に電子情報処理組織を用いて裁判所外の端末における記録の閲覧等を認めること、電子情報処理組織を利用した送達の規律を導入すること等が示された。


これら各種手続のIT化も、司法アクセスの拡充、審理の充実による適正かつ迅速な紛争解決のために必要かつ有用であり、今後、報告書に示された整理に従って立法化に向けた検討作業が進められることが求められる。特に、利用者である市民からのニーズが高く、かつ不利益が想定されない事項については、可及的速やかな立法化が必要である。また、法改正を経ずとも所要の規則等の整備やシステムの導入により実現できるIT化施策については、政府による十分な予算措置とともに早急に実現して行くことが望まれる。


他方、各種手続のIT化の検討作業においては、通常の民事訴訟手続とは異なる各種手続の特質に応じ、これにふさわしい手続が整備されることが必要である。民事訴訟法が適用ないし準用される場面についても、そのまま適用ないし準用することが適切であるか否かがあわせて検討されなければならない。そのほか報告書においても引き続き検討するものとされた課題も多数あり、これらの点についても十分な検討が求められる。各種手続のIT化は、手続利用者の利便性の向上に資するものである一方、手続への関与の方法等に大きな影響を及ぼすものであり、裁判を受ける権利の保障の観点からも、今後の検討が必要な事項については、利用者である市民の意見も広く集約、反映しながら、多角的に検討されなければならない。そのため、今後の検討に当たっては、法制審議会において調査審議を行い、あわせて意見募集手続(パブリックコメント)も実施されるべきである。


当連合会は、このような検討作業にも積極的に関わり、利用しやすく頼りがいのある民事裁判手続を実現すべく引き続き取り組んでいく所存である。



 2021年(令和3年)12月17日

日本弁護士連合会
会長 荒   中