自然災害債務整理ガイドライン新型コロナウイルス特則適用開始から1年を迎えての会長談話


本日、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下「本特則」という。)の適用が開始されてから1年が経過した。


本特則は、従前、自然災害の被災者を対象としていたガイドラインを、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことによって債務の弁済が困難となった個人債務者(個人事業主を含む。以下同じ。)に適用するものとして設けられた。当連合会は、本特則に関して、金融庁等関係機関との調整、全国の弁護士会における登録支援専門家の体制整備、各種研修の実施、広報活動等の取組を進めてきた。


本特則の趣旨は、個人債務者の既存債務の返済に関して、新型コロナウイルス感染症の拡大という予測不可能な社会的・経済的なリスクの発現に伴う新たな負担を、帰責性のない債務者に一方的に負わせるのではなく、債権者との間で改めて適切に分担し、債務者の生活及び事業の再建を図ることにある。


全国における本特則の委嘱件数は、既に1400件を超え、厳しい状況に追い込まれた個人債務者の生活及び事業の再建に一定の役割を果たしてきた。この間、本特則の運用に尽力してこられた関係機関に改めて敬意を表する。


他方で、本特則は、大規模感染症の影響を受けた個人債務者の債務整理の準則を定めるという我が国初の取組であることや、新型コロナウイルス感染症の影響の予想以上の長期化等から、様々な課題も生じてきている。例えば、本特則が適用されない基準日後(2020年10月31日以降)の対象外債務の存在が原因となり基準日以前の対象債務も含めて本特則の利用を断念せざるを得ない事案や、自治体等による公的貸付の一部について本特則による債務減免への対応の未整備によって支障を生じている事案等が報告されている。これらの課題については、本特則の趣旨に沿って制度・運用の改善がなされていく必要がある。


本特則による債務整理がより一層の実効性をもって運用されるためには、本特則の手続に関わる全ての関係機関が、本特則の趣旨・目的や制度内容について理解・認識を深め、本特則を尊重する実務慣行の確立に向けて不断の努力を重ねていかなければならない。


当連合会は、今後とも関係機関と緊密に連携しながら、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者の生活や事業の再建に向けて、本特則の円滑な運用及び実効性確保に尽力していく所存である。



 2021年(令和3年)12月1日

日本弁護士連合会
会長 荒   中