最高裁判所による民事裁判記録の特別保存に係る通知と「愛媛玉串料訴訟」の裁判記録の存在確認に寄せての会長談話


本年4月、松山地方裁判所において、保存期間5年を経過し既に廃棄したとされていた「愛媛玉串料訴訟」(1997年4月2日最高裁判所大法廷判決)の事件記録が保存されていることが判明した。


これは、最高裁判所が、事件記録等保存規程(以下「保存規程」という。)第9条第2項に規定する民事訴訟記録の特別保存(以下「2項特別保存」という。)に関して、東京地方裁判所の運用要領(2020年2月18日)を参考例として全国の裁判所に周知したことがきっかけであった。


2項特別保存は、史料又は参考資料となるべき記録又は事件書類を保存期間満了後も保存する制度で、保存規程の運用通達において、重要な憲法判断が示された事件、法令の解釈運用上特に参考になる判断が示された事件、世相を反映した事件で史料的価値が高いもの、全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なものなどが対象になるとされている。


また、2009年に成立した公文書等の管理に関する法律(2011年4月1日施行、以下「公文書管理法」という。)では、国等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が「国民共有の知的資源」として、保存、管理され、将来において「健全な民主主義の根幹を支える」よう利用等されるべきとされている(第1条)。訴訟記録についても、同法第14条第1項に基づき、最高裁判所は、内閣総理大臣と協議して定めるところにより、裁判所が保有する「歴史公文書等」の適切な保存のために必要な措置を講じなければならない。


この規定を踏まえて、2013年6月14日内閣府大臣官房長・最高裁判所事務総局秘書課長・最高裁判所事務総局総務局長申合せ「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について(平成21年8月5日内閣総理大臣・最高裁判所長官申合せ)の実施について」においては、2項特別保存により保存されている裁判文書については、裁判所で保存するものを除き、歴史資料として重要な公文書等として裁判所から内閣総理大臣に移管すべきとされており、保存規程第10条では、内閣総理大臣に移管すべき記録及び事件書類は、国立公文書館に送付するものとされている。


当連合会は、松山地方裁判所における「愛媛玉串料訴訟」のように廃棄を免れた訴訟記録が全国にまだ存在していることを切に期待して、全ての裁判所に対して、歴史資料や学術資料として重要な民事事件の事件記録の保存状況を確認することを求める。また、2項特別保存の指定を今後適切に行うとともに、保存される訴訟記録が貴重な歴史資料等として利用されるよう、公文書管理法並びに上記申合せ及び保存規程第10条に基づき、国立公文書館に確実に移管されることを強く求めるものである。



 2021年(令和3年)8月25 日

日本弁護士連合会
会長 荒   中