「姫路郵便局強盗事件」差戻し審・即時抗告棄却決定に対する会長声明


大阪高等裁判所第6刑事部は、本年6月30日、いわゆる姫路郵便局強盗事件の差戻し審・再審請求棄却決定に対する即時抗告申立事件につき、即時抗告を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。


本件は、2001年(平成13年)6月19日、兵庫県姫路市内の郵便局に、目出し帽、雨合羽等を着用した2人組が押し入り、2275万円余りの現金を強奪した事件である。請求人であるナイジェリア男性(以下「請求人」という。)は、直接証拠のない中で、実行犯の一人として逮捕・起訴された。請求人は、逮捕時から自らの無実を主張したが、懲役6年の有罪判決が確定した。これに対し、当連合会は本件再審請求の支援を行ってきた。


本件は請求人の犯人性が唯一の争点である。この点、再審請求以降、事件発生から間もなく請求人が使用・管理していた倉庫内から被害品である現金や犯行に使用された自動車等が発見されたという事実等から請求人が実行犯であることが推認できるかどうか、これに対して弁護人が提出した各種証拠が再審を開始するための新たな証拠にあたるかどうかが主に争われていた。


本決定は、上記倉庫の扉は施錠されておらず、誰でも自由に立ち入ることができたという複数の関係者の供述について、横断的・総合的に考察することなく個別に信用性を否定した。また、郵便局の防犯カメラ映像において、実行犯と特定された人物が目出し帽を脱ごうとした際に見られる「砂嵐」部分についても、捜査機関である科学捜査研究所の職員の証人尋問を実施したのみで、弁護人が指摘した捜査機関による偽造・改ざん等を否定した。このような防犯カメラ映像に見られる問題に加え、現場に遺留された目出し帽からは上記実行犯と特定された人物や請求人のいずれにも由来しない毛髪の採取及び請求人に由来しないDNA型の検出があったこと、上記実行犯と特定された人物の「請求人は実行犯でない」という供述の存在、請求人に関する血液型鑑定の客観的な誤り、請求人の足のサイズと実行犯が着用していた靴のサイズの相違等、請求人の犯人性を否定する方向で考慮されるべき複数の事実が既に明らかとなっている。このように、本件では、第三者による犯行の可能性が具体的に明らかになっているのであって、再審においても「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が適用されるとした白鳥・財田川決定に照らせば、再審が開始されるべきであったにもかかわらず、本決定は即時抗告を棄却したのである。


さらに、本件では、捜査機関のもとには、犯人を特定するに足りる指掌紋、毛髪及び体液等の証拠物並びにこれらについてのDNA型鑑定等の鑑定結果を記載した鑑定書等の客観的証拠が未提出のまま多数存在するはずである。ところが、検察官に対する証拠開示の勧告等がなされたこともなく、本決定に至るまでの再審請求審の判断及び訴訟指揮には多くの問題があると言わざるを得ない。


弁護人は、本年7月5日、本決定に対して特別抗告を行った。


当連合会は、特別抗告審において、捜査機関より必要かつ十分な証拠が開示され、充実した審理を経て今回の決定が取り消され、一日も早く再審開始が決定されることを求めるとともに、今後も請求人が再審無罪判決を勝ち取るまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。



 2021年(令和3年)7月14 日

日本弁護士連合会
会長 荒   中