建設アスベスト損害賠償請求訴訟最高裁判所判決に関する会長談話


最高裁判所第一小法廷は、本年5月17日、4件の建設アスベスト損害賠償請求訴訟についての判決(以下「本判決」という。)を言い渡し、国及びアスベスト建材を製造したメーカーの責任を認める統一的判断を示した。


同訴訟は、建設作業に従事していた者が、建材に使用されたアスベストによって健康被害を受けたとして、規制権限の行使を怠った国及びアスベスト建材を製造し警告表示なくそれを販売したメーカーに対し、その責任を追及し、損害賠償を求めた集団訴訟である。


本判決は、いわゆる一人親方に対する責任を認めるなど、国の責任を広く認めたほか、メーカーの責任を限定的に肯定するにとどまった2017年10月27日の東京高等裁判所(神奈川第1陣訴訟)判決及びメーカーの責任を否定した2018年3月14日の東京高等裁判所(東京第1陣訴訟)判決を見直し、以下のような新しい規範を示した。


第1に、複数の者の権利侵害行為が競合し、いずれの者の行為によって被害者の損害が生じたのかが不明の場合において、被害者によって特定された行為者(以下「相手方」という。)が被害者の損害をそれのみで惹起し得たと言い切れない場合で、かつ、相手方のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないと言い切れない場合であっても、相手方が製造販売したアスベスト含有建材が被害者の稼働する建設現場に相当回数にわたり到達していたとの事実(以下「建材現場到達事実」という。)が認められる場合は、民法719条1項後段の類推適用により因果関係の立証責任の転換を認め、相手方はその行為の損害の発生に対する寄与度に応じた責任を連帯して負うものとした。


第2に、建材現場到達事実の立証手法として、国土交通省データベースの掲載情報や建材のシェアを用いた確率計算による推認を認めた。


第3に、メーカーは、アスベスト含有建材を最初に使用する際の作業に従事する者に対してだけでなく、その後の工事に従事する者に対しても、警告表示義務を負担するとした。


本判決は、どのメーカーの製品によって健康被害が発生したか厳密に特定できない場合でも、メーカーはその寄与の範囲で連帯責任を負うとしたものであり、アスベストの健康被害に苦しむ被害者の救済に大きく資するものであるとともに、 不法行為の競合が問題となる他の健康被害の事例にも大きな影響を与えるものとして、注目に値する。


また、本判決を受け、建設作業に従事していたアスベスト被害者の救済について、国と被害者らの協議により判決対象外の被害者及び未提訴の被害者を含む幅広い範囲の救済制度が作られることになったことは歓迎すべきことであるが、今後、メーカーも、その救済について応分の負担をすべきである。


これまで当連合会は、建設作業に従事していたアスベスト被害者を含む全てのアスベスト被害者について、実効性のある被害救済制度の創設を求め、2006年1月18日付け「『石綿による健康被害の救済に関する制度案の概要』に対する会長声明」及び2014年10月9日付け「大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟最高裁判所判決に関する会長声明」を公表してきた。


本判決を受けて、当連合会は、国に対し、これらの会長声明で指摘したとおり、速やかに現行の石綿による健康被害の救済に関する法律の全面的な見直しを行い、全てのアスベスト健康被害者の全面的救済を行うことを、改めて強く求める。



 2021年(令和3年)5月21日

日本弁護士連合会
会長 荒   中