東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から10年を迎え、「人間の復興」の実践と被災者支援を継続する会長談話


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東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)から10年を迎えた。東日本大震災による死者は1万5,899人、行方不明者は2,527人(警察庁調べ。2020年12月10日現在)に上る。被災地では、今なお多くの被災者が困難な状況に置かれている。


当連合会は、災害からの復興は憲法が保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」であることをこれまでも強調してきた。しかし、生活の基盤である住環境の再構築についてみれば、住家被害認定、被災者生活再建支援制度や応急仮設住宅制度等の各制度自体が課題を抱えていることに加え、被災者が利用するには複雑な制度設計となっており、被災者支援の制度として十分に機能しているとは言えない。10年が経過した現在でも不安定な状況での生活を余儀なくされている被災者が多く存在することを忘れてはならない。


また、東日本大震災において災害関連死と認定された方は3,767人(復興庁調べ。2020年9月30日現在)に上るところ、災害関連死の防止に向けた施策を進めるため、国が実施した実態調査の結果公表が待たれる。亡くなられた方々の無念さを無駄にしないためにも、今後の大規模災害の発生を見据えた避難体制の構築や避難所の環境整備、災害時の医療体制の改善等、早急の対応が求められる。


東日本大震災により発生した原発事故は今もなお続く災害であり、これからも決して忘れてはならない。10年が経過した現在でも、原発事故からの復興はいまだに見通せない。故郷を失い、慣れない土地での避難生活を続けざるを得ない帰還困難者は28,505人(福島県調べ。2021年2月26日公表)にも上っている。長期化する避難生活の中で被害者が受けた精神的・経済的な苦境は、想像を絶する。避難を余儀なくされた方々の生活の基盤が一刻も早く安定することを望む。


原子力発電所の敷地内には原発事故後に生じた汚染水に由来するトリチウムを含む処理水の貯蔵タンクが並び、隣接自治体には除染に伴い発生した除去土壌を保管するフレコンバッグが今なお山積みにされており、事故現場の処理や廃棄物の処分の目処は立っていない。原発事故及びその風評被害により、生業に大きな被害を受けた方々は、これらの処理が長引けば、さらに被害を受けることが懸念される。


このような原発事故による被害の救済をはかるためにも、原子力損害賠償紛争解決センターによる和解仲介手続の一層の充実が求められる。事故から10年が経ち、同事故に係る損害賠償請求権の消滅時効期間が順次経過することから、その後の国や東京電力ホールディングス株式会社(旧東京電力株式会社)の対応についても注視していかなければならない。


時間の経過に伴い、被災者が置かれている状況は一層多様化、複雑化している。「人間の復興」を目指し、どの被災者も取り残すことなく支援するためには、一人ひとりの状況を的確に把握し、様々な施策や制度を組み合わせて個別の生活再建計画を立て、人的支援を含めて総合的に被災者を支援する仕組み(災害ケースマネジメント)を全国的に実現することが有益である。加えて、効果的な支援に繋げるため、自治体内の部署間及び支援者・自治体間の被災者情報の共有の促進も望まれる。


当連合会は、東日本大震災及びそれ以降に相次いで発生した大規模災害において、被災者向け法律相談、ADR及び被災ローン減免制度等の支援に取り組んできた。昨年からは、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の影響も重なって、被災者を取り巻く環境は厳しさを増している。今後も引き続き「人間の復興」を目指し、全国各地の弁護士、弁護士会の経験と法律家としての英知を結集し、被災者支援のための活動を継続していく所存である。



 2021年(令和3年)3月11日

日本弁護士連合会
会長 荒   中