性差別を許さず、男女共同参画の実現を推進する会長談話


2021年2月3日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の会長(当時)は、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の臨時評議員会において、スポーツ団体ガバナンスコード(スポーツ庁・2019年6月10日策定)が設定した女性理事の目標割合(40%以上)の達成に関連して、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」、「私どもの組織委員会…(の女性は)みんなわきまえておられて」などと発言した。全世界が注目する東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の長であり、しかもかつて我が国の内閣総理大臣の立場にあった人物が、公式の場で平然と女性蔑視・差別を内容とする発言を行ったことは社会に大きな衝撃を与え、国内外から厳しい非難の声が上がった。


かかる一連の発言が、性別による差別を禁止する憲法14条1項及び日本が批准する女性差別撤廃条約の理念に反し、男女共同参画の理念にも悖ることは、改めて指摘するまでもない。さらに、オリンピック憲章は「権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」と定め、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会は多様性と調和を基本コンセプトとしている。上記発言は、オリンピック憲章の精神にも真っ向から反するものである。


また、JOC及び組織委員会は、本件に対し、直ちに問題点を明らかにするとともに、差別を許さない組織への具体的な改善策を示す等すべきであった。しかし、適時に適切な対応が取られることはなく、むしろJOC会長は「(謝罪、撤回したのだから会長職を)最後まで全うしていただきたい」などと述べ、擁護の姿勢さえ示していた。


性差別解消や健全な民主主義発展のため、意思決定過程により多くの女性が関与すべきことは、現代社会における普遍的価値である。上記一連の事象は、政府や民間企業が挙げて取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行することはもちろん、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いの露呈にほかならない。さらに、同会長の発言は、女性に「わきまえる」ことを求め、意見の表明を差し控えよと言わんばかりであるが、意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることが必要であることは、国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理である。女性に限らず少数者が意見を述べることが制止されるような風潮があるならば、多様性と調和を基本コンセプトとする東京オリンピック・パラリンピックの存在意義が問われるだけでなく、ひいては我が国の健全な民主主義にも疑問が呈される問題である。当連合会としても、かかる事態を座視することはできない。当連合会は、JOC及び組織委員会に対し、多様性と調和の実現を目的としつつ、効果的な再発防止策の作成と実施、ガバナンスの見直し、前掲のスポーツ団体ガバナンスコード(女性理事の目標割合40%)達成等に向けて、いち早く取り組むことを望む。


当連合会も、「第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」を策定し、性別による差別的取扱いを厳しく禁止するとともに、男女共同参画実現のための目標を定めて取組みを続けているが、今後も性差別を許さず、男女共同参画社会の実現に向けた活動を積極的に展開していく所存である。



 2021年(令和3年)2月19日

日本弁護士連合会
会長 荒   中