滞納処分に関する仙台地方裁判所における和解に対する会長談話


本年1月6日、仙台地方裁判所において、宮城県及び大崎市と税滞納者との間で、滞納処分に基づき、金融機関に開設した預貯金口座に給料が入金された直後に、預金債権として全額の差押えをした案件に関する国家賠償請求事件について、和解が成立した。和解内容としては、差押えにより徴収した金員の全額を返還することに加え、今後は、実質的に差押禁止債権の差押えと同視されるような差押えをしないこと、地方税法及び通知等を尊重し、税滞納者の個別具体的な実情を十分に把握した上で適切な措置を講じることが約束された。


納税の義務(憲法30条)を負う国民としては、税滞納は好ましい事態ではないが、一方で、生存権(憲法25条)もまた、保障された権利であることから、生存権を脅かすような態様での徴収は許されない。


当連合会は、2017年(平成29年)1月20日、「arrow_blue_1.gif財産開示制度の改正等民事執行制度の強化に伴う債務者の最低生活保障のための差押禁止債権制度の見直しに関する提言」において、差押禁止債権が預金口座に振り込まれ、預金債権に転化した直後に、これを差押えする行為について、実効性ある規制の立法化を求めてきた。質問検査権をはじめとした広汎な調査権限が与えられている税徴収の場面においては、差押禁止債権が振り込まれる口座を特定することは容易であり、差押禁止債権が入金されるのを待って狙い撃ち的に差押えをすることもまた容易なのであるから、民事執行の場面と比較して、格段に生存権を脅かすおそれが高い以上、かかる差押えについては厳に差し控えられなければならない。


しかし、本件もさることながら、税徴収の場面において、差押禁止債権が預金口座に入金された直後に差押えをするという例が、全国で散見されており、訴訟等で争われているのが現状である。高等裁判所の判決案件だけを挙げても、広島高裁松江支部平成25年11月27日判決及び大阪高裁令和元年9月26日判決などで、差押えにより徴収した金員について不当利得に基づく返還を命じる判断が相次いでいる。これを受けて、国税庁は、2020年(令和2年)1月31日に、かかる差押えを原則としてしないよう求める通達を発出している。しかし、いまだに地方税についての差押事案の報道がなされ、当連合会にも報告がなされている。かかる差押えは地方税においても同様に自粛されるべきである。


本和解は、差押禁止債権が預金口座に振り込まれた直後に預金債権として差押えをした自治体が、訴訟を通じて、問題指摘を受け止め、自らかかる差押えを控えることを言明したものとして大いに評価することができる。そもそも、総務省が各自治体に対し、毎年繰り返し通知をしているとおり、滞納処分に基づく差押えは、税滞納者の個別具体的な生活実態を踏まえて行われるべきことからすれば、本和解が、全国の各自治体においても、徴収姿勢に行き過ぎがないかを見直すきっかけとなり、本和解を参考とした、適切な徴収緩和措置を含む徴収実務が行われることを期待するものである。



 2021年(令和3年)1月7日

日本弁護士連合会
会長 荒   中