ビジネスと人権に関する行動計画公表を受けての会長声明



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本年10月16日、政府は、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)(National Action Plan、以下「NAP」という。)を発表した。その背景には、近年、国境を超える経済活動を通じて、企業活動によって労働者や地域住民、消費者等に、様々な人権侵害が生じていることへの懸念がある。このような「ビジネスと人権」の課題に対応するための国際的な枠組みとして、2011年、国連で、ビジネスと人権に関する指導原則(以下「指導原則」という。)が承認された。指導原則は、企業に国際的に認められた人権を尊重させるために、国に人権擁護義務を課し、企業に人権を尊重する責任を求め、国と企業に対して被害者を救済する制度を構築することを求めた。このNAPが、関係府省庁が個別に実施してきた人権の保護に関する措置を「ビジネスと人権」の観点から整理し、かつその措置の担当官庁を特定し、関係府省庁の政策の一貫性を確保することを「優先分野」としたことは、日本におけるビジネスに関わる人権課題の解決に貢献が期待できるものとして、当連合会はこれを歓迎する。


しかしながら、今回発表されたNAPには、いくつかの問題点が存在する。第1に、NAPを策定するためには、現在の法制度・政策では何が足りないかを分析することが大前提となるはずであるが、そのような分析が十分なされた形跡がない。第2に、サプライチェーンにおける人権侵害を防ぐことも重要な課題であるが、その具体的な施策がほとんど記載されていないなど、当連合会をはじめとする作業部会ステークホルダー構成員の間で、NAPに具体化して反映すべきとして意見が一致した事項に関しても十分に反映されているとは言い難い。第3に、救済へのアクセス並びにNAPの実施においても重要な役割を果たす国内人権機関の設置には触れられていない。


NAPには、「関係府省庁とステークホルダーとの間の信頼関係に基づく継続的な対話を行うための仕組みを立ち上げる」とある。当連合会は、早急にこの「仕組み」を立ち上げることを要請する。あわせて、この「仕組み」の下で、関係府省庁とステークホルダーとの対話の継続を通じて、フォローアップ、情報提供、推進状況の確認を、積極的かつ効果的に進めていく決意である。



 2020年(令和2年)12月2日

日本弁護士連合会
会長 荒   中