新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者への「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の適用開始に当たっての会長声明


新型コロナウイルス感染症の拡大により、社会経済活動の自粛・制限が長期に及ぶ中で、多くの企業や個人事業者が深刻な経営危機に瀕している。その影響は個人の生活にも広く及んでおり、弁護士に寄せられる法律相談の中には、就業先や取引先の経営危機や倒産等によって減収や失職、廃業を余儀なくされ、あるいは住む場所さえも失った市民の悲痛な声が数多く含まれている。そのような市民の生活や事業を再建し、再スタートに踏み出すための方策を講じることは、喫緊の課題である。


本日、災害救助法の適用を受けた災害を対象とする「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)を、一定の要件を修正した上で、新型コロナウイルス感染症の影響によってローン等が返済できなくなった個人債務者にも適用することが発表された。


本ガイドラインは、東日本大震災の被災者支援を目的に創設された「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」の運用を通じて得られた経験等を踏まえ、住宅ローンや事業上の既往債務の返済が困難となった個人債務者について、債務を減免する等の債務整理を公正・迅速に行うための準則となっている。


本ガイドラインを利用する場合には、①既往債務の減免、②個人信用情報機関に登録されないこと、③自由財産(債務者の手元に残せる財産)について、法定差押禁止財産に加え、一定の範囲で拡張も認められる場合があること、④保証債務の履行の原則免除、⑤弁護士等の「登録支援専門家」の支援を無料で受けられることなど、個人債務者の生活や事業の再建に有用な制度設計がされている。本ガイドラインは、熊本地震や西日本豪雨災害、北海道胆振東部地震等の被災者支援でも活用され、利用実績が積み重ねられている。


新型コロナウイルス感染症拡大による影響についても、震災や台風、水害等の自然災害に見られるような住家の損壊等は発生していないものの、不可抗力とも言える事象によって生活が困窮した個人や事業継続が困難になった個人事業者が支払不能となる構図に何ら変わりはない。


当連合会は、新型コロナウイルス感染症の拡大を災害と位置付け、その影響を受けた個人債務者にも本ガイドラインを適用する必要があるとの認識の下で、金融庁、一般社団法人全国銀行協会等の関係機関との協議を重ねてきたところであり、様々な障壁を乗り越えて適用開始にこぎ着けた関係諸機関の努力に、深く敬意を表するものである。


適用開始はあくまで入口にすぎないのであり、本ガイドラインが、債務の返済が困難となった個人債務者の生活や事業の再建を実現する手段として有効、適切に運用されていかなければならない。


本ガイドラインに基づいて個人債務者を支援する「登録支援専門家」は、弁護士が就任することが予定されているところ、新型コロナウイルス感染症の影響が全国に及んでいることからすれば、あらゆる地域で登録支援専門家となる弁護士の確保が必要となることが想定される。


当連合会は、関係諸機関と連携しながら、登録支援専門家となる弁護士の確保や研修の実施、制度の周知・広報などにより、本ガイドラインの運用に全面的に協力し、債務者の生活や事業の再建が着実に果たされるよう取り組む所存である。



 2020年(令和2年)10月30日

日本弁護士連合会
会長 荒   中