行政不服審査法改正の趣旨に沿った、難民不服審査制度の正常化を求める会長声明


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不服申立人の地位の向上と適正手続の保障を十全なものにしようとする行政不服審査法(行審法)の抜本的改正が2016年4月に施行されてから4年が経過した。その間、改正行審法に基づく各種行政手続が積み重ねられてきた。


上記改正の際、行政手続の一つである難民認定手続については、改正行審法の特則として、口頭意見陳述自体を開催しないことができる等の例外が広く設けられた(入管法61条の2の9第6項)。不服申立人が自らの意見を口頭で述べる機会を保障することは適正手続保障の重要な要素であり、行審法改正の趣旨を骨抜きにしかねないこのような特則に対して、当連合会は強い懸念を表明していた(2014年5月23日付け「arrow_blue_1.gif行政不服審査法改正に伴う出入国管理及び難民認定法改正案に対する会長声明」)。


近時発表された統計値によれば、昨年1年間の難民不服審査の裁決案件6022件のうち、4388件もの案件で口頭意見陳述の機会を放棄したものとされており、その放棄の任意性に関して疑義がある。それとともに、当事者が口頭意見陳述の申立てを放棄していない1634件のうち、口頭意見陳述が実施されたのは582件に過ぎず、裁決案件全体の僅か9.7パーセントに止まっているということは重大な問題である。しかも、不服申立てにおける認容(難民認定数)は1件にとどまり、その余の6021件は棄却等されていることから、認容率は僅か0.017パーセントにまで落ち込んでいることになる(以上、法務省「令和元年における難民認定者数等について」)。


これは、前記会長声明が懸念していた状況よりも、格段に深刻な事態と言うべきである。難民不服審査に関して見る限り、行審法改正前の異議申立制度では原則として口頭意見陳述が認められていたことからすれば、従前よりも当事者の地位ははるかに低下し、適正手続の保障はむしろ後退してしまったと言わざるを得ない。


折しも、本年6月に第7次出入国管理政策懇談会の収容・送還に関する専門部会により「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」が公表された。その中では、難民申請中の強制送還停止効の一部見直しも提言されたが、前述の行審法改正趣旨の深刻な骨抜き状況に鑑みれば、「提言」実施に先立って、まずは難民不服審査の正常化こそが実施されなければならないことは明白である。


当連合会は、国に対し、入管収容・送還問題の改善に向けての議論が正しく進められる前提として、行審法改正の趣旨に立ち返った入管法改正等の対応を速やかに行うことにより、まずもって難民不服審査制度の正常化がなされることを、強く求める次第である。





 2020年(令和2年)8月27日

日本弁護士連合会
会長 荒   中