新型コロナウイルス下で差別のない社会を築くための会長声明


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今日、新型コロナウイルス感染症が拡大する中、感染者らを社会的に排除しようとする状況が発生している。例えば、感染者・医療関係者等に対するSNS上での誹謗中傷、感染者が確認された学校・施設等に対する非難、医療関係者等の子どもの通園・通学拒否、感染者の自宅への投石、県外ナンバー車・長距離運転業者の排斥、感染者のプライバシー侵害及びこれらを誘発する言動など、様々な偏見差別が生じている。


このような偏見差別は、基本的人権の尊重を基本原則とし、個人の尊厳、自由及び人格権(憲法13条)並びに法の下の平等(憲法14条)を保障する日本国憲法の下、感染者やその家族等の人格や尊厳を侵し、また、生活に重大な悪影響を与えるものであり、決して容認し得ないものである。


この点において想起されるべきは、感染症に関わる偏見差別の象徴であるハンセン病問題であり、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」においても、ハンセン病患者等に対する偏見差別を教訓として今後に生かすことが必要であること(前文)、感染症の患者等の人権が損なわれることがないようすること(4条)が定められている。


確かに新型コロナウイルス感染症はハンセン病とは異なる特徴を有するものではあるが、感染症に関わる偏見差別という共通の問題を生じさせており、感染症を理由として個人の尊厳が侵され、偏見差別を受けることがあってはならないことを改めて社会共通の認識とする必要がある(当連合会「患者の権利に関する法律大綱案の提言」(2012年9月14日)、厚生労働省「ハンセン病問題に関する検証会議」最終報告書(2005年)各参照)。


そこで、政府及び地方自治体には、新型コロナウイルス感染症に関する必要かつ正確な情報提供及び十分な説明責任を果たし、偏見差別・人権侵害防止のための普及啓発・教育活動を積極的・継続的に講じることを求める。


また、弁護士をはじめ法曹関係者は、偏見差別の実態に直面したとき、法律相談をはじめあらゆる法的救済手段をもってその是正に向けた対応を行うとともに、それらの活動により偏見差別のない市民社会の構築に貢献する責務を有する。


当連合会は、新型コロナウイルス感染症に関わる偏見差別・人権侵害が見られる中、引き続き偏見差別を生み出さない社会を築くために努力する決意を表明する。





 2020年(令和2年)7月29日

日本弁護士連合会
会長 荒   中