東京地裁判決を受けて改めて旧優生保護法被害者の被害回復を求める会長声明
本年6月30日、東京地方裁判所は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟において、原告敗訴の判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
本判決は、旧優生保護法下の強制不妊手術等の被害について、全国各地で提起されている国家賠償請求訴訟に関し、昨年5月28日に出された仙台地裁判決(以下「仙台地裁判決」という。)に続く、全国で2件目の判決である。
旧優生保護法下で行われた強制的な不妊手術に関しては、昨年4月24日に「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)が成立し、本年6月28日までに941件の一時金請求がなされ、本年6月末時点での認定件数は621件となっている。
この941件という請求件数は、旧優生保護法下で強制的な不妊手術を受けた被害者数約2万5000人の4%にも満たない数であり、被害者による一時金請求は進んでいない。このような状況下で、本判決がいかなる判断をするのか注目されていた。
本判決は、不妊手術は憲法13条で保護された実子を持つかどうかについて意思決定する自由を侵害するものであったことを認めており、この点は評価できる。
しかしながら、本判決は、旧優生保護法自体の違憲性について何ら言及しておらず、この点は、同法の違憲性を正面から認め、かつ、特別立法の必要不可欠性をも肯定した仙台地裁判決と比べて後退したものとなっている。
また、本判決は、遅くとも旧優生保護法が改正された1996年(平成8年)の時点では国家賠償請求訴訟の提訴が困難ではなかったとした上で、同時点を起算点とし、本訴訟提起時に既に改正前民法724条後段の除斥期間が経過していたことを理由に原告の請求を棄却した。
これは、子どもを持ち育てるかどうかを決定する権利を奪われた被害の重大性、また、不妊手術において「欺罔等の手段」を用いることが許されていたため、違憲な法律に基づいて手術が行われたことを原告が知り得なかったことや更なる差別への恐れなど、権利行使を著しく困難とした諸事情を十分に考慮しないまま判断されたものであり、著しく正義・公平に反するものである。
また、原告に対する不妊手術を含む旧優生保護法下の強制不妊手術等は、国が優生思想に基づき、障がい者等が「不良」(旧優生保護法1条)であるとの差別的理由によって身体の侵襲を伴う重い苦痛を与えたものであるから、我が国も批准する拷問等禁止条約における「拷問」に該当する。同条約は拷問被害者の救済を受ける権利の確保を締約国に義務付けており、その趣旨からすると、これを阻害する出訴期間を適用してはならないのであり、本件被害に除斥期間を適用することは、同条約の趣旨にも反するものである。
裁判所は、本件被害に除斥期間を適用することなく、被害者の損害賠償額について適切な判断をすることが期待される。
本年6月17日、衆参両院は、旧優生保護法の立法経緯や社会的背景、被害の実態等について、調査を開始することを決定した。国による自己決定権侵害の被害を繰り返さないためにも、徹底した調査と検証が不可欠であり、調査結果を踏まえて被害者への補償を充実させていくべきである。
当連合会は、一時金支給法の運用状況や国会調査を注視するとともに、引き続き、適時に必要な提言等を行い、旧優生保護法による被害の真なる回復の実現に向けて、真摯に取り組んでいく所存である。
2020年(令和2年)7月15日
日本弁護士連合会
会長 荒 中