「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明
法務省の「出入国管理政策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「本専門部会」という。)は、2020年6月19日、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を公表した。
まず、本提言のうち、以下の措置については、退去強制令書の発付を受けた者にも保障される憲法及び国際人権法上の諸権利(自由権規約第13条・第14条・第17条・第23条、子どもの権利条約第3条・第9条、難民条約第33条、拷問等禁止条約第3条など)を侵害しかねないものであり、看過し得ない問題がある。
本提言「第4」1(3)(退去強制令書の発付を受けた者が本邦から退去しない行為に対する刑事罰を設ける措置)については、退去強制令書の発付を受けた者の相当数が、本邦で生育し、本邦に家族を有し、本国に帰国した場合に迫害の危険にさらされるおそれを有することから退去しない又はできないのである(例えば、2010年から2018年までの期間において、難民認定された者の約20%、人道配慮を理由に在留を許可された者の約41%が、退去強制令書の発付後に認定又は許可を受けている。)。ところが、本提言では、このような退去しない又はできない理由や原因といった立法事実が十分に検討されていない。加えて、在留特別許可の許否等についていまだ司法による判断もなされていない当事者に対して刑事罰をもって帰国を強制することにより裁判を受ける権利等を侵害するおそれがある上、支援者の活動を萎縮させるおそれもあることから、反対する。
本提言「第4」1(4)(再度の難民認定申請者に対する送還停止効の例外の創設)については、難民条約の解釈・運用に関する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の解釈・勧告等を尊重するための法整備等、難民認定の質の向上のための具体的措置が採られない限り、反対する。また、少なくとも、一部解除についての再審査を受ける権利の保障や第三者機関によるモニタリングなども必要である。
本提言「第4」2(3)イ(仮放免された者が逃亡した場合に対する刑事罰の創設)については、これに反対するとともに、仮放免された者の生存権を尊重する観点から、仮放免された者が送還のないまま一定期間が経過した場合の一時的な在留資格又は就労許可を付与する制度をまずは設けるべきである。
また、本提言のうち、在留特別許可を適切に活用すべき点、庇護を要する者の適切な保護を前提とした点、在留特別許可、退去強制手続、仮放免許可申請手続などの手続保障の規定の整備を目指すとした点などについては、前進した点もあるものの、以下のとおり、多くの改善を要すべき点が含まれている。
1 出入国管理行政の目的として、出入国管理の公正のほか、外国人の人権の尊重、難民の保護を明記し、その調和を図るよう規定を整備すべきである。
2 在留特別許可を適切に活用すべき点(本提言「第4」1(1))に関し、国際人権法上認められている、家族の結合や子の最善の利益の保障等の要件を明示すべきである。そして、その前提として、退去強制手続と在留特別許可の手続を分離し、在留特別許可に関する手続保障の規定を整備するとともに、いわゆる再審情願を行う場面も含め、当事者に在留特別許可を申請(請求)する地位を認めるべきである。
3 収容の要件(本提言「第4」2(1))を「その者が逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるとき」に限るとともに、収容の開始又は継続時における司法審査、収容期間の上限を導入すべきである。
4 仮放免の要件の明確化(本提言「第4」2(3)ア)については、人身の自由を不当に制限しないという観点から要件を検討するとともに、仮放免許可申請に対する許否の判断を直ちに行い、その判断の適否を裁判所が迅速に判断できるようにすべきである。
5 本提言で述べられている「新たな収容代替措置」(本提言「第4」2(3)ア)については、退去強制令書を発付された者を全て収容するといういわゆる全件収容主義にとらわれることなく、当初より収容しない措置とするとともに、身元保証人やNGOといった支援者に運用の負担を強いるのではなく、諸外国の例に倣いながら、国が責任をもって関与する制度とすべきである。
当連合会は、本専門部会において検討された論点に対し、2020年3月18日に「収容・送還の在り方に関する意見書」を公表するなどしてきた。本提言には、上記のとおり多くの問題のある措置や更に改善を要すべき点が含まれており、今後、政府に対して、本提言を反映した収容・送還に関する運用上及び法整備上の措置を行うに当たり、上記の問題点、改善事項を踏まえた慎重な検討を行うよう求めるものである。
2020年(令和2年)7月3日
日本弁護士連合会
会長 荒 中