「姫路郵便局強盗事件」差戻し審・再審請求棄却決定に対する会長声明



神戸地方裁判所は、本年6月15日、いわゆる姫路郵便局強盗事件再審請求事件の差戻し審において、再審請求を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。


本件は、2001年(平成13年)6月19日、兵庫県姫路市内の郵便局に、目出し帽、雨合羽等を着用した2人組が押し入り、2275万円余りの現金を強奪した事件であり、請求人であるナイジェリア人男性(以下「請求人」という。)は、実行犯の一人として逮捕・起訴された。請求人は、逮捕時から自らの無実を主張したが、実行犯の一人であるとされ、懲役6年の有罪判決が確定した。


請求人は服役後も一貫して犯人性を否認して再審請求を行い、2013年(平成25年)4月以降、当連合会も本件再審請求の支援を行ってきた。


本件は請求人が強盗の実行犯か否かが唯一の争点であったにもかかわらず、差戻し前の再審請求審である神戸地方裁判所姫路支部は、請求人を実行犯と認定する一方で、仮に請求人が実行犯ではないとしても実行犯ではない共犯者であるという推認が妨げられないとし、再審請求を棄却した。これに対し、即時抗告審の大阪高等裁判所は、専ら実行犯性が争われてきたのに、検察官も主張していない実行犯でない共犯性について突然独自に判断したことに対し、実行犯かその他の共犯かによって間接事実の持つ意味や構造に変化が生じる可能性があり、推認過程に対する反論や反証も異なり得るから、その点について請求人に主張立証の機会を与えなかったことは不意打ちに当たることなどを理由に、神戸地方裁判所に審理を差し戻した。


しかし、差戻し後の神戸地方裁判所は、本決定において、差戻しの理由とされた間接事実の推認力や推認過程について何ら検討をすることのないまま、請求人が実行犯であるとの判断を示し、再審請求を棄却した。


そもそも、本決定は請求人の実行犯性を認めているが、差戻し後請求審において弁護人が提出した防犯カメラの映像に関する鑑定書等各種新証拠に照らせば、請求人の実行犯人性には合理的な疑いがあり、「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が適用されるとした白鳥・財田川決定に照らせば、再審が開始されるべきであった。


また、本決定は、大阪高裁において差戻しの理由とされた請求人に対する不意打ちの論点について、何ら検討を経ることなく判断していることに対しても強い批判は免れない。


さらに、犯人を特定するに足りる指紋、毛髪及び体液等の証拠物並びにこれらについてのDNA型鑑定等の鑑定結果を記載した鑑定書等の客観的証拠が、未提出のまま捜査機関のもとに多数存在するはずであるが、弁護人の求めにもかかわらず、本決定に至るまで、検察官に対する証拠開示の勧告等がなされたこともない。


このように、本決定に至るまでの再審請求審の判断及び訴訟指揮には多くの問題があると言わざるを得ない。


弁護人は、本年6月19日、本決定に対して即時抗告を行った。


当連合会は、即時抗告審において、捜査機関より必要かつ十分な証拠が開示され、充実した審理を経て今回の決定が取り消され、一日も早く再審開始が決定されることを求めるとともに、今後も請求人が再審無罪判決を勝ち取るまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。






 2020年(令和2年)7月3日

日本弁護士連合会
会長 荒   中