法務局支局における公証事務の取扱いの廃止に反対する会長声明



公証事務は、法的紛争を未然に防止するという重要な予防司法の役割を持つ。 特に、公正証書は、公正証書遺言のほか、借地契約や離婚給付契約などでも多く利用されており、企業のみならず市民にとっても公証役場は身近な存在となっている。最近は、任意後見契約、尊厳死宣言などにも公正証書が利用され、高齢者にとっても公証役場を利用する機会が増えている。また、本年4月1日施行の改正民法において、第三者が事業用融資を保証する場合に公証人による保証意思の確認が必要とされたように、今後も新たな立法による公証事務の創設があり得る。


公証事務は原則として公証人が担うことになっているが、公証人法第8条は、法務局支局等の管轄区域内に公証人がいない場合において、法務大臣は、当該法務局支局等に勤務する法務事務官に公証人の職務を行わせることができると規定する。これは、公証事務の重要性に鑑み、公証人がいない地域の市民も、公証事務を容易に利用できるようにするための制度である。そして、この制度により、本年6月時点では全国14か所の法務局支局において公証事務が取り扱われていた。


ところが、本日、旭川地方法務局留萌支局、秋田地方法務局本荘支局及び大曲支局、福井地方法務局小浜支局における公証事務の取扱いが廃止された。


これらの支局における公証事務の取扱廃止の理由として、法務局は、法務局支局で公証事務を開始した頃に比べて、道路交通網の整備、公共交通機関が発達したことにより、住民の移動手段が飛躍的に向上したことや、情報通信技術の画期的な発達により、FAXや電子メールが一般家庭に普及し、公証役場への来庁回数を1回とすることも可能であることなどを挙げている。


しかし、鉄道やバス路線が多数廃止されていることに象徴されるとおり、公共交通機関はむしろ衰退している地域も少なくない。また、総務省が世帯及び企業における情報通信サービスの利用状況等を調査した「通信利用動向調査」(令和2年5月9日)によると、世帯におけるFAX保有率は33.1%にすぎない。パソコン保有率は69.1%である。特に高齢層においては、パソコンでインターネットを利用している人は70歳代で31.4%、80歳以上は11.3%である。さらには、FAXや電子メールなどにより、公正証書の内容確認が可能な人であっても、公正証書作成時には公証役場に赴く必要がある。公証役場から遠隔地に住む人にとっては、公証役場への移動は大きな負担や危険を伴うおそれがある。


これらの事情に照らすならば、地方法務局支局における公証事務取扱いの廃止は、当該地域の住民の公証事務へのアクセスを阻害し、法的紛争を未然に予防する重要な手段の利用が妨げられる結果を招来する。


また、地方法務局支局において公証事務を取り扱っていることについては、公証事務の取扱いがある地方法務局支局のホームページにも取扱業務として掲載されていない状況であり、必ずしも十分な周知がなされていない。十分な周知がなされていない状況において、利用件数が少ないことを理由として、公証事務の取扱いを廃止することは相当ではない。


よって、当連合会は、法務大臣に対し、上記4支局について、速やかに公証事務の取扱いを再開することを求めるとともに、公証事務取扱いのある法務局支局については、市民に対し、取扱業務に公証事務が含まれることを積極的に周知することを求める。





 2020年(令和2年) 7月1日

日本弁護士連合会
会長 荒   中