「地方公共団体の広域連携」に係る第32次地方制度調査会 答申に対する会長声明



本年6月26日、第32次地方制度調査会は「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」(以下「本答申」という。)を公表した。


当連合会は、2018年10月24日付け「自治体戦略2040構想研究会第二次報告及び第32次地方制度調査会での審議についての意見書」及び本年3月18日付け「第32次地方制度調査会で審議中の圏域に関する制度についての意見書」において、「圏域」を法制化し、「圏域」が主体となって「行政のスタンダード化」を進めていくことは、憲法上の保障である地方自治の本旨との関係で、看過できない問題があることを指摘し、第32次地方制度調査会が、平成の大合併及び連携中枢都市圏構想の実証的な分析検証、国土政策の観点からの検討及び国土形成計画・都市計画等との整合性の検討並びに地方自治の本旨に立脚した検討と全国市長会及び全国町村会等の意見等の十分な考慮をすることのないまま、「圏域」又はそれにつながる法律上の枠組みを設けることについて答申することは、拙速であるとして、反対してきた。しかしながら、結局、それらの検証等が十分に行われることのないまま、本答申は公表されるに至った。


本答申は、「第4 地方公共団体の広域連携」において、「核となる都市と近隣市町村による連携のプラットフォームとして進められている定住自立圏・連携中枢都市圏の形成については、相当程度進捗した」としている。また、「連携協約等により、市町村間で連携して行う施策等を記載する計画(以下「連携計画」という。)を作成する等の役割を担う市町村(以下「連携計画作成市町村」という。)の役割と責任が明確化され」、「適切かつ円滑な合意形成に資するものと評価できる」として、「連携計画作成市町村が連携計画を作成する際の合意形成過程のルール化」や「他の市町村の十分な参画を担保する仕組み」を法制度として設けること、また、「関係市町村の区域全体の共や私の担い手が参画する場において連携計画が検討されるようにするようにし、加えて、連携計画に盛り込むべき取組について共や私の担い手からの提案を可能にする仕組み」を法制度として設けることが考えられるとしている。さらに、「(中心)市町村から都道府県に対して、近隣市町村の区域に係る都道府県の事務の委託を要請できるようにする仕組みを法制度として設けることが考えられる」としている。


これらは、中心市が近隣市町村を主導するという関係性を前提として、定住自立圏・連携中枢都市圏における中心市(「連携計画作成市町村」という言葉に置き換えている)による広域的な計画づくりのルール化及び都道府県から中心市への近隣市町村を含めた権限移譲について、法制化を指向するものといえる。


特に、連携計画作成市町村による広域的な計画づくりのルールの法制化については、その是非を含めて、関係者と十分な意見調整を図りつつ検討がなされる必要があるとしながら、同時に、答申素案まで記載がなかったにもかかわらず、答申案の段階から新たに「法制度化」という言葉を使用し、「連携計画作成市町村以外の市町村の参画を担保する確実な方策は法制度化であり」という記述を書き込み、法制化に向けた検討を答申する内容となっている。広域連合や機関の共同設置等の市町村の対等・平等を前提とする既存の広域連携の様々な手法について検討することなく、中心市が主導する仕組みである定住自立圏・連携中枢都市圏のみをことさら取り上げていることも考え合わせると、これは、当連合会が問題点を指摘してきた「圏域」又はそれにつながる法律上の枠組みを指向する内容であると解される。


本答申において法制度化が指向されている中心市が主導する連携中枢都市圏等の広域連携制度は、中心市に権限と財源を集中し、市町村の対等・平等を損ない、中心市と周辺市町村との間に格差を生じさせ、周辺部の衰退を助長してしまう可能性があり、憲法上の保障である地方自治の本旨の基本的内容をなす、地方自治の基礎的単位である市町村の「住民自治」と「団体自治」を脅かすおそれがある。それにもかかわらず、連携中枢都市圏等の実証的な分析検証や様々な観点からの検討等を十分に行うことなくなされた本答申は、拙速に行われたものと言わざるを得ない。


憲法上の保障である地方自治の本旨との関係で問題を有する制度の法制化を指向するような本答申が、拙速な審議により行われたことは遺憾である。当連合会は、今後の「地方公共団体の広域連携」の在り方の検討が、地方自治の本旨にのっとり、より慎重に行われることを求める。





 2020年(令和2年) 6月26日

日本弁護士連合会
会長 荒   中