「日野町事件」について公平な裁判所による審理を求める会長声明



当連合会が再審支援している日野町事件において、現在、第二次再審請求における再審開始決定に対する即時抗告審(以下「本件」という。)が大阪高等裁判所に係属中であるが、今般、本年6月12日発令の裁判所の人事異動により、本件の裁判長が、同事件の第一次再審請求における大津地方裁判所の請求棄却決定当時の裁判長に交替することが明らかになった。


第一次再審請求において、大津地方裁判所は、強盗殺人罪の犯人とされた亡阪原弘氏(以下「亡阪原氏」という。)の自白には、新証拠から認定できる殺害態様など複数の客観的事実との矛盾があることを認めながら、その矛盾の原因を亡阪原氏の記憶能力の問題等に帰して、自白の信用性には影響を与えないと判断し、確定判決の有罪認定を維持した。


第一次再審請求当時前記判断をした裁判長が、本件において再び裁判長を務めることになれば、実質的に過去の自らの判断の当否を審理することとなり、予断をもって審理に臨むのではないかとの懸念が生じ、裁判の公正さが疑われる。それにより、再審請求人の「公平な裁判所」の裁判を受ける権利(日本国憲法37条1項)が脅かされ、司法に対する市民の信頼を失う事態になりかねない。


この点、現行刑事訴訟法の除斥(同法20条7号)及び忌避(同法21条)の規定は前次の再審請求には適用されないと解されているため、当連合会は、除斥及び忌避の規定を再審請求に適用されることを明確にするための法改正を提言しているが(1991年3月28日付け「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」)、現行法等の下でも、公平な裁判所の審理確保のために、通常審や前次の再審請求に関与した裁判官が自発的にその後の再審請求の審理に関与しない対応をとることが日本国憲法37条1項の理念に沿うと言うべきである。


よって、当連合会は、本件において、第一次再審請求審に関与した裁判長が本件の審理に関与せず、公平な裁判所による審理が行われることを強く求める。





 2020年(令和2年)6月25日

日本弁護士連合会
会長 荒   中