中小企業・小規模事業者に対する新型コロナウイルス感染症対策の緊急融資に関して改善を求める会長声明



政府は、本年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、7都府県を対象に緊急事態宣言を発出し、同月16日にはこれを全国に拡大、5月4日には同月31日まで延長した。その後、同月14日には39県で解除に至ったが、依然、国民生活全体に大きな影響が及んでいる。特に、リーマンショックをはるかに上回ると言われる経済活動の停滞の中で、多くの中小企業・小規模事業者の業況が急速に悪化し、資金繰りに困難が生じている。これらの中小企業・小規模事業者の経営破たんを回避するための資金の注入は、もはや一刻の猶予も許されない。


このような状況下での中小企業・小規模事業者の資金繰り支援策としては、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付や、信用保証協会のセーフティネット保証制度、危機関連保証制度、さらには都道府県等による制度融資を活用した民間金融機関による実質無利子・無担保融資等の新型コロナウイルス感染症対策の緊急融資(以下、これらを「緊急融資」という。)が期待される。


しかし、これらの緊急融資は、現在の金融機関の組織体制で対応可能な数を圧倒的に上回る申込みがなされ、依然として融資実行までには時間がかかる状況にあり、事業者が求める資金需要に追いついていない。


また、一定の事業価値があるものの、既存の借入金負担が重い事業者や、事業再生(民事再生手続の利用を含む。)に取り組んでいる事業者は、事実上、新規融資が受けられない現実がある。


さらに、緊急融資は、無利子・無担保とうたわれる一方で、代表者の個人保証が求められる場合も少なくないが、個人保証の徴求が中小企業・小規模事業者にとって過度な負担となることで、迅速な融資実行の妨げとなるおそれがある。このような事態は、緊急融資を行う趣旨及び経営者保証の課題に対する適切な対応を通じてその弊害を解消するという「経営者保証に関するガイドライン」の目的に適合しない。


他方で、緊急融資を受けると既存借入に加えて更に借入金が増加することになるが、その返済につき何らの軽減策もない状態では、その返済が負担となって中小企業・小規模事業者が経営破たんするという事態にもなりかねず、また、それを怖れて緊急融資を受けること自体を躊躇させてしまうことにもなる。この点では、株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法において採用された債権買取りスキーム等が参考になる。


以上の点を踏まえ、当連合会は、今般の新型コロナウイルス感染症の影響によって、資金繰りが悪化している中小企業・小規模事業者に対する支援を促進する観点から、国及び関係諸機関に対し、新型コロナウイルス感染症対策の緊急融資に関して次の4点について速やかに改善されることを強く求める。


1 中小企業・小規模事業者に対する緊急融資実行の迅速化・効率化を図るために、金融機関における融資の審査プロセスをより一層簡素化すること。

2 既存の借入金負担が重くなっている事業者や事業再生に取り組んでいる事業者に対しても、積極的に緊急融資を推し進めること。

3 中小企業・小規模事業者に対する緊急融資については、原則として個人保証を求めない運用とすること。

4 株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法において採用された債権買取りスキーム等も参考にしつつ、既存債務を含めた緊急融資に対する返済の負担を軽減する措置を検討すること。



 2020年(令和2年)5月15日

日本弁護士連合会
会長 荒   中