新型コロナウイルス感染拡大によって家賃の支払に困難を来す人々を支援するため、住居確保給付金の支給要件緩和と積極的活用を求める会長声明



政府は、本年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、7都府県を対象に緊急事態宣言を発出し、同月16日にはこれを全国に拡大、5月4日には同月31日まで延長した。これに伴い、営業や外出の自粛が要請されることによって、仕事と収入の減少又は喪失に見舞われ、生活困窮に陥って家賃の支払に困難を来す人々が増え始めている。仮に緊急事態宣言が終結しても、営業や外出の自粛が引き続き求められるであろうことからすれば、今後、時間の経過とともに、こうした人々が爆発的に増えることも予想される。


家賃滞納によって転居や住居喪失を余儀なくされる生活困窮者の家賃負担を援助する制度としては、生活困窮者自立支援法第6条に基づく住居確保給付金があるが、極めて厳格な要件が厚生労働省令によって定められているため、2016年度の新規支給決定件数はわずか5095件と利用は低迷してきた。


新型コロナウイルス感染拡大防止に起因する省令改正により、本年4月1日からは「65歳未満」との要件が撤廃され、同月20日からは離職後2年以内の者だけでなく収入が減少した者も支給対象とされ、同月30日からは「公共職業安定所に求職の申込みをし、誠実かつ熱心に期間の定めのない労働契約又は期間の定めが六月以上の労働契約による就職を目指した求職活動を行うこと」という要件を「誠実かつ熱心に求職活動を行うこと」に緩和するなど、要件の緩和や運用の改善が相次いでおり、それ自体は大いに評価できるところであるが、まだまだ改善の余地があると言わざるを得ない。


そこで、当連合会は、新型コロナウイルス感染拡大によって家賃の支払に困難を来す生活困窮者を支援するため、以下のとおり、住居確保給付金の支給要件を更に緩和することによって、同制度を積極的に活用することを求める。


1 2年以内の離職又は減収という要件については、要件緩和に伴い窓口に相談者が殺到し、いずれかの要件に該当することを証明するための資料の確保・提出の説明や審査の負担が以前よりも増大して、給付金の支給事務に混乱と遅延が既に生じつつある。したがって、緊急事態宣言期間中は、生活困窮者自立支援法3条3項の「離職又はこれに準ずるものとして(厚生労働省令で定める事由)」及び「就職を容易にするため」との文言を削除するとともに省令を改正して、2年以内に離職又は減収という要件と「誠実かつ熱心に求職活動」を行うことの要件自体を直ちに廃止すること。


2 外国人技能実習生を含む外国人、アルバイト収入や親からの仕送りの減少によって学業の継続が困難となっている大学生・専門学校生等が支援の対象となるよう、「離職等の前に主たる生計維持者であったこと」という省令の要件も廃止すること。


3 対象者の要件のうち、収入基準額は、例えば東京23区の場合、単身世帯で13万8000円以下、2人世帯で19万4000円以下のままであり、いま現実に家賃支払いが困難となっている人の大部分が対象から外れると考えられる。また、支給される家賃の上限額も、生活保護の住宅扶助特別基準と同額(例えば東京23区の場合、単身世帯で5万3700円、2人世帯で6万4000円)にとどまり、これでは家賃の全額をまかなえない世帯が多数生じることが容易に想定される。省令を改正し、収入基準及び支給上限額についても、相当程度緩和すること。


4 求職者支援法に基づく職業訓練受講給付金との併給を認めないとの省令の要件も、将来、新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後に、失業者が職業訓練によって新たな技能を身に付けた上でより良い再就職を果たす機会を奪うことになりかねないので、廃止すること。


 2020年(令和2年)5月7日

日本弁護士連合会
会長 荒   中