刑事施設における一般面会を過度に制限しないことを求める会長声明


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令和2年4月7日、日本政府により、新型コロナウイルス感染症を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令された。同月16日、その対象地域が全国に拡大され、5月4日には、期間が5月31日まで延長された。


法務省は、緊急事態宣言の対象となる区域のうち、特定警戒都道府県に所在する刑事施設において、弁護人等以外の者との面会を原則として実施しないとして、施設への来訪を控えるように求める取扱いをする旨発表した。これを受け、多くの対象刑事施設が、個別事情を確認することなく一律に一般面会の受付を中止し、一律禁止したのと同様の状況となっている。


刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律では、原則として、未決拘禁者の面会は許可しなければならないとされており、何らの代替措置もとらないまま、長期間にわたり、事実上の接見禁止処分に当たるような面会の一律禁止を行うことは許されない。また、同法は、受刑者について、適正な外部交通が受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰に資することを明らかにし、親族との面会を受刑者の権利としている。被収容者にとって、家族を含む他人と面会する自由は重要な権利の一つである。感染防止を理由に、被収容者の外部交通の自由を一律に禁止することは、手段としても過剰である。


新型コロナウイルスの感染拡大が日々憂慮され、相互に家族の安否を気遣うであろう状況下で、当初の緊急事態宣言の対象期間である5月6日までの1か月近くにわたって家族にすら一切会えない状況が続き、更に5月31日まで同様の状態に置かれ続けることにより生じる精神的負担は大きい。とりわけ、我が国は、諸外国で広く実施されている「電話連絡」(電話等による通信。テレビ電話、ビデオ通信等を含む。)が、受刑者のごく一部にしか認められていないため、面会が認められなければ、親族等とのコミュニケーションが長期間にわたって著しく制限される結果になる。


なお、法務省に設置された矯正施設感染防止タスクフォースは、4月28日付けで「矯正施設における新型コロナウイルス感染症感染防止対策ガイドライン」を策定しているが、消毒等の一定の感染防止策を定めたのみで、一般面会の一律禁止は求めていない。


被収容者の生命身体の安全保護のためから感染拡大防止には最大限留意する必要があるものの、上記ガイドラインで定めた感染防止策の実行を徹底すれば、不用意な感染は相当程度防止することができると考えられる。その場合にも、消毒作業などに対応する職員の負担を踏まえ、一日当たりの面会数を制限することは検討の余地があり得るが、仮に面会を制限するのであれば、電話連絡を認めることについても積極的な検討が必要であろう。


以上から、法務省においては、全国の刑事施設に対し、被収容者の外部交通権を過度に制限し、一般面会を一律禁止することのないよう周知することを求める。


また、全国の刑事施設においては、感染拡大防止に最大限留意しつつも、個別の事情に配慮して一般面会を認めるほか、面会を制限する場合にも、電話連絡などの代替手段を柔軟に活用することを求める。


 2020年(令和2年)5月7日

日本弁護士連合会
会長 荒   中