緊急事態宣言の影響による賃料滞納に基づく賃貸借契約解除を制限する等の特別措置法の制定を求める緊急会長声明



新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う政府の緊急事態宣言の影響により、急激に収入が減少し、住居の賃料を支払うことが困難となっている賃借人が増加している。賃料の滞納が続いた場合には、債務不履行を理由として賃貸借契約を解除され、明渡しを求められるおそれもある。


この点、民法の解釈では、賃料の不払を理由に賃貸借契約を解除するには、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていることが必要とされる。この解釈によれば、緊急事態宣言の影響により3か月程度の滞納が生じても、直ちに解除が認められないケースが多いものと考えられる。しかし、どのような場合に信頼関係の破壊が認められるかは事案ごとの判断とならざるを得ず、賃借人の不安を解消しきれない。


そもそも、住居は生活の基盤というべきものであって、これを失った場合には、賃借人やその家族の生活は成り立たなくなってしまう。現在、その対策として、生活困窮者自立支援法施行規則が改正され、住居確保給付金の支給対象が、一定の事由による休業などで収入が減少し離職や廃業と同程度の状況にある場合にまで拡大されている。しかし、対象者の要件である収入基準額は従前のままであることから、支給を受けられる者は限られ、対策として十分とは言いがたい。


同様に、緊急事態宣言及びこれに基づく外出自粛要請や事業者に対する休業協力要請等により、飲食店をはじめとするテナントにおいても賃料の支払が困難な状況が生じている。とりわけ日々の売上げにより賃料等の経費をまかなっている中小事業者にとっては大変深刻な事態となっており、既に経営を断念したテナントも現れ始めている。政府は、税制優遇措置を講じて賃貸人に対し賃料の減免等を促しているが、かかる対応はあくまでも賃貸人の自主的な判断に委ねるものであり、その実効性には限界がある。


このような状況において、国民の生活の基盤である住居を確保し、生業としての事業を継続させるためには、まずもって緊急事態宣言の影響により賃料の支払が困難になった場合に、一定期間の賃料の支払を猶予し、それらの滞納に基づく賃貸借契約解除を制限する必要があり、そのための特別措置法が必要である。


もとより、国が賃料の支払を猶予し、契約解除を制限する立法を行うことは、私権の制限を伴うものであるから慎重に検討しなければならない。しかし、前述した新型コロナウイルスの感染拡大による昨今の状況に加え、新型インフルエンザ等対策特別措置法第58条では、緊急事態において、緊急の必要がある場合に、国会の閉会中の場合などに内閣が金銭債務の支払の延期等について必要な措置を講ずるため政令を制定することができると定められていること、同様に感染拡大の状況にある諸外国においても賃料不払による賃貸借契約解除を一定期間制限する立法措置がなされていることからすれば、現在開会中の国会においてこれを立法化することにつき国民の理解も十分に得られるものと考える。


現在、国会においてテナントの賃料に対する支援策について審議がなされようとしており、早急な実現が求められる。ただ、刻一刻と生活や生業の基盤を失うおそれのある国民が増え続けている現状からすれば、まずは国民に対し、緊急事態宣言の影響による賃料滞納に基づいて賃貸借契約が解除されないとの保障と安心を与えることが重要である。  


以上のとおり、当連合会は、国に対し、緊急事態宣言の影響により賃料の支払が困難になった場合に、一定期間の賃料の支払を猶予し、それらの滞納を理由とする賃貸借契約の解除を制限する内容を盛り込んだ特別措置法の制定を求める。


併せて、当連合会としても、住居やテナントの賃料の支払が困難となっている方々のための法律相談や法的援助の提供により一層力を入れ、これらの方々が安心して生活することができるよう、引き続き取り組む所存である。



 2020年(令和2年)5月1日

日本弁護士連合会
会長 荒   中