精神科病院における虐待に障害者虐待防止法の通報義務と必要な措置等を適用することを求める会長声明



本年3月、兵庫県神戸市所在の精神科病院において、看護師らが入院中の患者に対し、わいせつな行為をさせたり、椅子に座らせ水をかけたりする等の虐待を繰り返し行っていた旨の報道があった。本来患者を治療するべき立場にある医療従事者によるこのような許されざる行為は、別件の刑事事件を契機に明らかになったものである。院内の職員からの通報や患者本人から精神医療審査会への訴えもなく、行政の実地指導によっても、本件を明らかにできなかった。これらのことは精神科病院の閉鎖性を如実に物語っている。


これまでにも、精神科病院における虐待は幾度となく起き、集団暴行のような重大な権利侵害事案など社会問題化した事件も少なくない。


障害者への虐待防止と早期発見・早期対応のため、2012年に障害者虐待防止法が施行され、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者の通報義務と通報を受けた地方自治体等の適切な権限行使をすべき責務(以下「通報義務等」という。)が規定された(同法7条、9条、16条、19条、22条、26条)。ところが、精神科病院における虐待については、その閉鎖性や問題の深刻さが指摘されていたにもかかわらず、精神科病院を含む医療機関が通報義務等の適用対象から除外され、自主的な防止措置に留められた(同法31条)。


同法の成立時には、附則第2条において、医療機関などにおける障害者虐待についても施行後3年を目途に必要な措置を講ずるとしており、家族会などの当事者団体は、精神科病院における虐待についても通報義務等の適用対象とすべきとして働きかけを行ってきた。当連合会も、arrow『障害者の権利に関する条約』の批准に際しての会長声明」(2013年12月4日)や、「arrow障害者権利条約の完全実施を求める宣言」(2014年10月3日)において、一貫して医療機関における虐待も通報義務等の適用対象とすることを求めてきた。今般の事件は、医療機関の中でも特に閉鎖性の強い精神科病院における同法の通報義務等の適用の必要性を痛感させることとなった。


当連合会は、改めて精神科病院における虐待について、被虐待者の早期発見・早期救済を図るため、直ちに、障害者虐待防止法を改正し、医療機関を通報義務等の適用対象とすることを求めるものである。



 2020年(令和2年)4月23日

日本弁護士連合会
会長 荒   中