「小石川事件」再審請求棄却決定に対する会長声明



東京地方裁判所刑事第10部は、いわゆる小石川事件について、本年3月31日付けで再審請求を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。


小石川事件は、2002年7月31日、請求人が、文京区小石川の被害者方に侵入し、被害者の口腔内に白色タオルを押し込んで窒息によって殺害し、現金約2000円在中のがま口を強取したとされる強盗殺人事件である。


この有罪認定の重要な証拠は自白であり、弁護人らは自白の信用性を弾劾する新証拠、請求人が犯人でないことを示す新証拠を再審請求審に提出した。


最も重要な新証拠はDNA型に関する新証拠である。被害者の口腔内に押し込まれていた白色タオルは、被害者が日常で使用していたもので、同タオルから被害者と異なる別の者のDNA型が検出されていたところ、このDNA型が請求人のDNA型と異なること、自白どおりの犯行態様であれば請求人のDNA型が検出されるべきこと、検出されたDNA型は被害者方に出入りしていた多数の関係者のDNA型とも異なり、真犯人のDNA型である可能性が高いことを示す新証拠を提出した。


加えて、請求人が犯人で被害者方を物色したとすれば検出されるはずの指紋が検出されていないこと、請求人が犯人で自白どおりの態様で犯行に及んだとすれば請求人の着衣の繊維が被害者の身体や着衣から検出されるはずであること、被害者の大腿部背面に生じた損傷が自白どおりの犯行態様であれば生じるはずのないものであること等の新証拠を提出した。


しかし本決定は、これらの新証拠に対し、十分な検討をせずに証拠価値を否定し、確定判決の事実の認定に影響を及ぼし、これに合理的な疑いを抱かせるものとはいえないと判示し、再審請求を棄却した。特に弁護人らが提出した多数の関係者のDNA型検査の結果について、科学理論的根拠、学術的根拠を示さずに、複数の者のDNA型が混合している場合に本来の反応が検出される場合もあれば、されない場合もあると判示して、その証拠価値を否定した。本決定は、DNA型鑑定という科学的証拠について、科学的知見に基づいて十分な検討をすることなく判断しているのであって、その判断手法には重大な誤りがある。


本決定に対して、弁護人らは、本年4月6日、東京高等裁判所に即時抗告を申し立てたところであるが、本決定の判断は極めて不当であり、即時抗告審において是正されなければならない。当連合会は、引き続き小石川事件の再審請求を支援し、再審開始、無罪判決の獲得に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。



 2020年(令和2年)4月23日

日本弁護士連合会
会長 荒   中