菊池事件判決を契機に改めてハンセン病隔離法廷の検証等を求める会長声明




本年2月26日、熊本地方裁判所は、菊池事件の開廷場所指定及び審理について、被告人がハンセン病であることを理由に合理性を欠く差別をしたものとして憲法14条1項に違反し、また、ハンセン病に対する偏見・差別に基づき被告人の人格権を侵害したものとして憲法13条にも違反するという明確な違憲判断を下すとともに、菊池恵楓園内で行われた審理については、公開原則を定めた憲法37条1項及び82条1項に違反する疑いがある、と判示した(以下「本判決」という。)。


菊池事件とは、1952年、熊本県旧菊池郡で発生した殺人事件について、ハンセン病患者とされた被告人に対し、菊池恵楓園及び菊池医療刑務所内の隔離法廷(ハンセン病療養所、刑事収容施設等の強制隔離施設内に特別に設置された特別法廷のこと)で審理が行われたが、被告人の無実の訴えにもかかわらず、1953年死刑判決が下され(1957年最高裁で確定)、1962年に死刑執行がなされた事件である。ハンセン病病歴者らは、菊池事件は隔離法廷における憲法違反の審理によって死刑判決が下された冤罪事件であり、公益の代表者である検察官が再審請求しないのは国家賠償法上違法であるとして、2017年8月に国家賠償請求訴訟を提起していた。


最高裁判所事務総局が2016年4月に公表した調査報告書では、ハンセン病を理由とする開廷場所指定は差別的取扱いの疑いがあるとして裁判所法違反を認めるにとどまっていたのに対し、当連合会は、2017年10月6日、第60回人権擁護大会において「arrow_blue_1.gifハンセン病隔離法廷における司法の責任に関する決議」を採択して、隔離法廷の違憲性を正面から認めるように求めていた。本判決は、請求を棄却したものの、隔離法廷の違憲性を明確に認め、ハンセン病に対する差別・偏見の根深さや人権侵害の深刻さを踏まえたものであり、上記決議の内容に沿うものとして評価できる。


当連合会は、上記決議において、最高検察庁に対して、再審請求・非常上告等を通じた名誉回復措置の真摯な検討を求めていた。憲法違反の隔離法廷による刑事裁判は是正されなければならず、そうでなければ真の名誉回復はなされないからである。


当連合会は、本判決を契機に、改めて、最高検察庁に対して、菊池事件をはじめとするハンセン病隔離法廷の刑事事件・刑の執行を検証し、その検証結果を公表した上、再審請求・非常上告等を通じてハンセン病病歴者及び家族らの名誉回復を図るよう真摯に検討することを求めるものである。


 2020年(令和2年)4月15日

日本弁護士連合会
会長 荒   中