東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から9年を迎え、「人間の復興」の実践と被災者支援を継続する会長談話



東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から9年が経過した。被災地では今なお多くの被災者が困難の中にあるが、10年の節目を前に被害の事実が一層風化しつつあるのではないかと危惧される。


当連合会は、これまで災害からの復興は憲法が保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」であるべきことを強調してきたが、その第一歩ともいうべき住宅再建については、今なお仮設住宅での生活を余儀なくされている被災者が多数存在し、災害公営住宅の家賃引上げや、収入要件を理由とする立退き要請も見受けられる。他方で、災害公営住宅への入居がかなわず、過酷な住環境に置かれたままの在宅被災者も少なくない。


また、災害関連死を可能な限り減少させることは最重要課題の一つである。東日本大震災における災害関連死の本格的な実態調査等の結果はいまだに公表されていないが、今後の災害発生時における災害関連死の防止の観点からも、早急に調査結果の分析とこれに基づく対策が必要である。


さらに、原発事故からの復旧・復興も、いまだ十分なものとは言えない。避難指示が解除された自治体への帰還率は、現在も決して高いとは言えず、帰還した被害者もインフラが十分に整わない環境での不便な生活を強いられている。他方で、避難を続けざるを得ない被害者も多数存在し、避難の長期化による孤立・差別・いじめの問題や公的支援の打切り等により、精神的にも経済的にも厳しい状況に置かれている。事業者についても、いまだ商圏も十分に回復せず、風評被害も継続している中、営業損害賠償の打切りが通告されるなど、今後の事業継続に大きな不安を抱えており、原発ADR(和解仲介手続)についても、被害者救済のためにはより一層の充実した運用が求められる。


時間の経過に伴い被災者の課題はますます個別化し、支援の在り方も個々のケースによって異なりつつあり、被災者の「人間の復興」を実現するためには、一人一人の被災状況を的確に把握し、様々な支援施策や福祉施策を組み合わせて個別の生活再建計画を立て、人的支援も含めて総合的に被災者を支援する仕組み(災害ケースマネジメント)を全国的に実現することが有益である。


昨年も、全国各地で大規模災害が相次ぎ、令和元年台風災害の被害発生を受け、当連合会は、直ちに災害対策本部を設置し被災者支援に取り組んだ。


東日本大震災以降にも大規模災害が相次いでおり、今後も高い確率でその発生可能性が指摘されていることに鑑みれば、東日本大震災及び原発事故の被災者に対する支援は、これらの災害復興支援の先駆例となるべき位置付けにあると言える。


よって、当連合会は、今後も、「人間の復興」の実践を目指し、全国各地の経験と英知を結集して被災者支援を継続していく所存である。



 2020年(令和2年)3月11日

日本弁護士連合会
会長 菊地 裕太郎