職場のハラスメントに対する実効性ある法整備を求める会長声明

本年6月21日、国際労働機関(以下「ILO」という。)の総会において、「仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約」が採択された。本条約は、ハラスメントを「身体的、精神的、性的または経済的危害を目的とするか引き起こす、または引き起こす可能性のある、許容しがたい広範な行為」等と定義し、職場での暴力やハラスメントを禁止している。さらに、本条約を批准した場合、条約に沿って国内法を整備し、ハラスメントを法的に禁止することが求められる。


我が国においては、本年5月29日、職場でのハラスメント対策を強化する女性活躍推進法等の一部を改正する法律が成立した。今回の改正により、労働施策総合推進法ではパワーハラスメントを定義して事業主の防止措置義務等が定められ、男女雇用機会均等法では、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントを相談したことに対する不利益取扱いが禁止されたほか、育児介護休業法でも育児介護ハラスメントについて事業主の防止措置義務が定められた。しかし、改正後のいずれの法律にもハラスメントを禁止する明文規定はない。


男女雇用機会均等法に定める事業主のセクシュアルハラスメント防止義務は、2006年に配慮義務から措置義務に改正されたが、その後被害が減少した実情はない。当連合会は、2005年6月にセクシュアルハラスメントの禁止規定及び独立した行政救済機関新設の必要性を指摘する意見書を発出しているところ、同意見書が指摘した事項の重要性はますます高まっている。国連女性差別撤廃委員会からも、セクシュアルハラスメントに対して適切な禁止規定や制裁がないことについて繰り返し指摘を受けているところである。


このような状況に鑑みれば、この度のILO条約の採択を契機として、我が国においてもセクシュアルハラスメントについての明文の禁止規定を設けることはもとより、その他のハラスメントについても、その防止と救済に有効な法整備をすることが求められる。


当連合会は、ハラスメント対策で世界に遅れをとらないよう、前記ILO条約の批准に向けて、職場におけるあらゆるハラスメント被害根絶のために実効性ある法整備を行うことを求める。



 2019年(令和元年)6月28日

日本弁護士連合会
   会長 菊地 裕太郎