裁判員制度施行10周年を迎えての会長談話
裁判員制度が施行されて10年を迎えました。この間、1万件を超える裁判員裁判が行われ、9万人以上もの市民が裁判員・補充裁判員を経験されました。この制度を担われた法曹三者をはじめ関係者・関係機関各位、とりわけ司法参加を実現された多くの市民の皆様の御尽力・御努力に深甚なる敬意を表するものです。
裁判員制度は、「司法への国民の主体的参加を得て、司法の国民的基盤をより強固なものとして確立する」との目的の下、司法制度改革の目玉として導入されました。それまでの供述調書偏重の裁判から、「法廷で見て、聞いて、分かる」裁判への大きな転換を促し、直接主義・口頭主義という刑事訴訟法の本来の理念に近付きました。市民感覚や健全な社会常識が事実認定や量刑の判断に反映され、絶望的とも言われた刑事裁判の活性化につながっていると言えるものであり、裁判員制度は高く評価すべきものと考えます。さらには、この成果が刑事司法全体に波及していくことが期待されます。
他方、10年間の施行の中で、幾多の問題点も明らかになってきています。その一つが60%を超える裁判員の辞退率です。多様なバックグラウンドを持つ市民で構成される裁判体にするには、裁判員として裁判に参加できる諸々の社会的基盤の整備とサポート体制の拡充を急がなければなりません。裁判員を経験した市民の95%以上が「よい経験であった」と肯定的に評価しており、そのことを市民に広く伝えていくことが必要です。
また、司法制度改革の基本理念と方向の一つに、国民の一人ひとりが、統治客体意識から脱却し、統治主体に転換することが挙げられていました。この理念を裁判員制度において踏まえるならば、裁判員が主体的に評議で発言をし、それが判決に反映されていると言えるのか、裁判官と裁判員が対等な立場で評議することができているのかが問われます。これらの問題を検討するためには、裁判員の守秘義務の対象を今よりも限定する見直しを行い、裁判員から意見を聴いて、評議の検証をすべきであると考えます。
その他、市民がより主体的に裁判に参加できるようにするための制度改革に向けた課題もあります。例えば、1.7%にすぎない対象事件を拡大する、裁判官と裁判員の人数比についてより裁判員の割合を今より増やす、裁判官と裁判員の情報格差をなくすために、公判前整理手続の主宰者を受訴裁判所から切り離すなどです。
私ども弁護士は、裁判員制度の更なる発展と充実を目指すとともに、裁判員裁判における被告人の権利を擁護するため、弁護技術の向上に向けて不断の努力を続けていく所存です。市民の皆様の格段の御理解と御協力をお願いいたします。
2019年(令和元年)5月21日
日本弁護士連合会
会長 菊地 裕太郎