会社法制の見直しに関する要綱案に対する会長声明


本年1月16日、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会において、会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(以下「要綱案」という。)が確定した。要綱案は、企業統治に係る制度の在り方に検討を加え、規律の見直しの必要があるとして、我が国の企業統治に関わる制度の具体的な改善策を示したものである。  


中でも、監査役設置会社である上場企業等に社外取締役を置くことを義務付けることは、当連合会が、企業統治向上の必要条件として強く主張してきたところであり、要綱案に盛り込まれたことを高く評価したい。当連合会では、社外取締役に望まれる活動の指針を示し、女性の選任促進を含む取締役会のダイバーシティ向上のための活動等を行ってきたが、今後も、社外取締役が期待される役割を果たすための活動を継続したい。  


これとともに、要綱案には、株式会社の実務を合理化し、企業実務に深い影響を与える改正案を含んでいるが、改正の目的を実現するためには、関係者の対応が課題となる。株主総会資料の電子提供制度は、情報開示の早期化・充実化とともに株主総会費用の削減を可能とするものであり導入を歓迎するが、一方、インターネットでのアクセスに困難を抱える株主が一定数存在することに鑑み、株主の書面交付請求権を周知徹底すべきである。また、会社法で定めるよりも更に早期のかつ内容の充実した電子提供措置を行うために、電子提供を進める企業をはじめとする関係者の努力が必要である。株主提案権の数及び目的等による制限では、株主は提案数の多さではなく、内容の適切さを重視した提案を行うとともに、会社は株主提案権を不当に制約しないよう慎重に運用し、経営の監督、対話の充実という株主総会の機能を損なわないようにしなければならない。取締役に対する補償契約、役員等のために締結される保険契約、株式交付の規律の新設については、インセンティブの向上、組織再編の促進等の所期の効果を上げるため、新しい規律の下での適切な運用の蓄積が必要である。  


社債管理者の設置が義務付けられない社債については、社債管理補助者の制度の新設が提案されており、社債権者の保護を強化する制度として評価したい。社債管理補助者の資格要件は、弁護士・弁護士法人に拡大することが予定されており、当連合会は、弁護士等が社債管理補助者に就任する場合の利益相反や、自然人である弁護士が死亡した場合の対応等の問題について、会則等による規律を行い、弁護士等が、その職務を適切に行う体制を整える。  


最後に、要綱案には盛り込まれなかったが、同部会において会社法改正の際に、株式会社の代表者住所について、個人情報保護の観点から、登記情報提供サービスの対象から除外する措置を行うことを、附帯決議に記載することが提案されている。インターネットによる個人住所の公開の弊害を考慮すれば、今回の措置は必要である。しかし、同サービスによる代表者住所の閲覧は、消費者被害の救済を含む弁護士の活動にとって必要性は高く、今後、弁護士が、職務上必要な場合に、同サービスによって、代表者住所を閲覧することを可能とするシステムの対応を含めた措置が実現するように、当連合会として、関係諸機関に働きかけをしていく所存である。  


会社法には更なる進展のために今後の検討を要すべき課題があるものの、当連合会は、要綱案は、諮問に対する適切かつ必要な改正案を示したものであることから、その内容に基づいた会社法の改正が早期に実現することを求める。


        

 2019年(平成31年)1月16日

             日本弁護士連合会
           会長 菊地 裕太郎