衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明



2018年12月19日、最高裁判所大法廷は、第48回衆議院議員総選挙(2017年10月22日実施)について、一票の較差が最大で1.979倍となった小選挙区選出議員選挙の選挙区割りを定めた公職選挙法の規定の違憲性及び選挙無効が争われた訴訟において、合憲判決を言い渡した(多数意見11、意見2、反対意見2)。
 

これまで最高裁判所は、2009年の衆議院選挙をめぐる2011年大法廷判決で、各都道府県に1議席を割り振る1人別枠方式が較差の大きな原因であり合理性がないと指摘し、2.304倍の最大較差を違憲状態と判断し、さらに2012年及び2014年の各衆議院選挙においても2倍以上の最大較差を違憲状態と判断してきた。これら一連の判決が続いた中で、本件選挙では、選挙区割りの改定により小選挙区制導入後初めて較差が2倍を切ったこと、廃止された1人別枠方式を前提にした定数配分が残ったままの選挙区があったこと、2020年の国勢調査後に都道府県の人口比を基に定数を配分するアダムズ方式の導入が決定されていることなどの諸事情があり、これらを最高裁判所がどのように評価するかに関心が集まっていた。
 

本判決の多数意見は、アダムズ方式が導入されることで選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ、その状態が安定的に持続するよう立法措置を講じたこと、同方式による定数配分がなされるまでの較差の是正措置として各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割の改定を行い、本件選挙当日の選挙人数の最も少ない選挙区を基準として較差が2倍以上となっている選挙区が存在しなくなったことなどを総合的に判断して、投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)は解消されたと評価できるとした。また、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数が、アダムズ方式による場合には異なることとなる都道府県が存在していることは、上記の立法措置の内容やその結果縮小した較差の状況を考慮すると、憲法の投票価値の平等の要求に反するものとなるということはできないとした。
 

諸事情を総合的に判断していることから、投票価値の較差が2倍未満であったことのみをもって、合憲の判断が導かれているわけではない。しかし、本判決が判断の要素の一つとして言及し、また、最大較差が2倍以上に開くことは投票価値の平等の要請に反するという見解が有力であったことから、本判決が最大較差を2倍未満に抑えれば投票価値の平等を満たすとのメッセージに受け取られることを懸念する。四つの個別意見はいずれも本件選挙区割り規定が合憲であることに疑問を呈し、投票価値の平等の要求から違憲状態又は違憲である旨を指摘していることに留意する必要がある。言うまでもなく、国民が国政にその政治的意思を表明することができる機会は選挙であり、選挙権は国民の政治参加において最も重要な権利である。そして選挙法は、徹底した人格平等の原則を基礎としており、より形式的に理解されるので、国民の意思を公正かつ効果的に代表するために考慮される非人口的要素は、定数配分が人口数に比例する原則の範囲内で認められるにすぎない。したがって、投票価値の平等は可能な限り1対1でなければならず、それに沿って選挙区割りが設定されるべきである。本件選挙の1.979というほぼ2倍というべき較差は、決して容認することはできない。
 

さらに、アダムズ方式による選挙区割りはいまだ実施されておらず、較差を解消する有効な手段であるかを実証的に評価することもできないはずである。にもかかわらず、同方式を較差是正を図った立法措置の一つとして考慮する本判決の判断手法は問題である。これでは、アダムズ方式による定数配分は投票価値の平等に違反しない、と最高裁判所があらかじめ宣言したと捉えられる余地がある。また、同方式による選挙区割りは、2020年の国勢調査を経た後となるのであるから、それまでに衆議院選挙が行われる場合に、投票価値の平等が厳格な形で実現される保障はない。
 

最高裁判所による2011年以降の累次の判断が国会の立法措置につながり、漸次投票価値の較差が縮まってきていることは一定の前進であるが、当連合会は、裁判所に対し更に積極的にその憲法保障の機関としての役割を果たすことを期待する。あわせて、当連合会は、国会に対して、投票価値の平等を実現するよう、選挙制度を不断に見直すこと、そして具体的には、衆議院議員選挙区画定審議会に選挙区別議員1人当たりの人口数を1対1にできる限り近づけるよう、選挙区割りを速やかに見直すことを求める。



       

 2018年(平成30年)12月21日

             日本弁護士連合会
           会長 菊地 裕太郎