「日野町事件」再審開始決定についての会長声明
本日、大津地方裁判所刑事部(今井輝幸裁判長)は、亡阪原弘氏の遺族が申し立てた、いわゆる日野町事件第2次再審請求について、再審開始を決定した。当連合会は、第1次再審請求申立ての直後から本件を支援してきたものである。
本件は、1984年(昭和59年)12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生した強盗殺人事件である。1988年(昭和63年)3月に亡阪原氏が逮捕され、一旦自白調書が作成されたものの、その後自白を撤回し、以後一貫して無実を訴えてきたが、2000年(平成12年)9月に上告が棄却されて無期懲役の判決が確定した。
本件確定判決は、直接の物的証拠がなく、状況証拠も亡阪原氏と犯人を結び付けるものではなく、任意性と信用性に疑問のある自白調書しかないという脆弱な証拠に支えられたものであった。2001年(平成13年)11月に申し立てた第1次再審請求においては、多数の新証拠が提出され、自白の重要な部分が客観的証拠と矛盾していることが明らかになったが、2006年(平成18年)3月、大津地裁は、不当にも再審請求を棄却した。即時抗告審係属中の2011年(平成23年)3月、阪原氏が病死し、訴訟手続が終了したが、2012年(平成24年)3月、遺族が第2次再審請求を申し立てた。
本事件では、証拠開示が大きな役割を果たした。第1次再審請求審では、裁判長の勧告により、全ての送致書、証拠品目録等が開示され、証拠の一覧表が作成された。第2次再審請求審でも、金庫発見場所や死体発見場所への引当捜査に関する写真とネガ、アリバイ捜査に関する捜査資料等、多くの重要証拠が開示された。その中には、引当捜査の任意性に重大な疑問を生じさせる証拠など、本開始決定を導く重要な証拠も含まれていた。
本開始決定は、新旧証拠を総合的に判断し、旧証拠についてもあらためて評価を行った結果、亡阪原氏の自白供述について、信用性を否定しただけでなく、任意性についても合理的疑いがあるとした。そして、亡阪原氏と犯行を結びつける間接事実についても、新旧証拠を総合的に判断すれば、亡阪原氏を犯人であると推認することはできないし、間接事実中に亡阪原氏が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係は含まれていないとした。
本件開始決定における総合判断の手法は、白鳥・財田川決定に忠実に沿うものとして、大いに評価すべきである。
本開始決定により、再審における証拠開示がいかに重要であるか再認識させられた。再審における証拠開示の制度化は、早急に進められなければならない。
阪原氏は本開始決定を待つことなく亡くなったが、早期の名誉回復をはかるためにも、本開始決定については検察官が即時抗告をすることなく、早急に再審公判が開始されるべきである。
当連合会は、「日野町事件」の再審開始が確定し、亡阪原弘氏の無罪が確定するまで、引き続き支援を行い、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。
2018年(平成30年)7月11日
日本弁護士連合会
会長 菊地 裕太郎