成年年齢を引き下げる「民法の一部を改正する法律」の成立に対する会長声明

本日、国会において、「民法の一部を改正する法律」(以下「本法律」という。)が成立し、民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることとなった。  


当連合会は、国民の生活に重大な影響を与える民法の成年年齢引下げについて、再三にわたり、「慎重であるべき」という意見を発出してきたものであるが、今般の法改正は慎重を欠く拙速なものであり、遺憾と言わざるを得ない。  


本法律は、日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)制定や公職選挙法改正による選挙年齢引下げを踏まえたものであるが、そもそも成年年齢を選挙年齢と一致させる必然性はない。また、成年年齢の引下げによって、若年者の社会参加の時期を早め、社会の様々な分野において積極的な役割を果たしてもらうことが、少子高齢化が急速に進む我が国の社会に大きな活力をもたらすという点も実証性に乏しく、立法事実として説得的とは言い難い。さらに、各世論調査の結果を見ても、国民の多くが成年年齢の引下げを望んでいるという状況にはないのが現状である。


他方、成年年齢の引下げによって、18歳・19歳の若年者が未成年者取消権(民法5条2項)を喪失することによる消費者被害拡大のおそれ、親権の対象となる年齢引下げによる自立困難な若年者の困窮の増大、高校教育での生徒指導の困難化、養育費支払終期の繰上げのおそれなど多くの弊害が生じることが指摘されている。2009年10月の法制審議会の意見も、成年年齢の18歳への引下げを適当としながら、その条件として、①若年者の自立を促すような施策・消費者被害の拡大のおそれを解決する施策が実現されること、②施策の効果が十分に発揮されること、③施策の効果が国民の意識として現れることを掲げている。ところが、その条件整備はほとんど達成されていないのが現状であり、今国会においても参考人のほとんどが条件は満たされていないと明言した。特に、若年者の消費者被害拡大のおそれについては、未成年者取消権の喪失に対応する施策が必要であるが、今国会で成立した消費者契約法改正法では、極めて限定された消費者被害にしか対応できず、成年年齢引下げに伴う若年者保護の施策という視点からは全く不十分である。  


よって、当連合会は、本法律の成立・施行が拙速であることにつき改めて遺憾の意を表明する。併せて、上記の成年年齢引下げに伴う弊害が現実化することのないような実効性のある施策を速やかに実現するとともに、成年年齢引下げ及びその影響などについて国民への周知を図るなど十分な環境整備を求めるものである。



  2018年(平成30年)6月13日

日本弁護士連合会      

 会長 菊地 裕太郎