「人間の復興」の実践と被災者支援を継続する会長談話

東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故から7年が経過した。この節目に当たり復興関連の報道等が増え、社会の関心が一見高まっているようにも感じられる。しかし、その視線が被災者一人ひとりの困窮にまで行き届いているか、被害の事実が過去のものとなり風化が加速していないかとの懸念を抱かざるを得ない。


復興事業の進捗状況には地域間で相当な格差があり、さらに、被災者一人ひとりの生活再建に着目すれば様々な困難がある。仙台弁護士会が取り組んだ石巻市等の在宅被災者ら563世帯を対象とする戸別訪問型法律相談では、支援の手が行き届かない在宅被災者等が今なお過酷な生活を余儀なくされている実態が浮き彫りになった。東日本大震災での災害援護資金貸付(貸付総額約520億円)の償還が本格化しつつあり、災害公営住宅の家賃引上げも始まるなど、被災者の生活は更に困窮を深めている。生活の困窮が原因で被災地域から人口が流出することとなれば、復興を妨げる事態となる。


また、原発事故の被害者に対する救済・賠償は不十分である。福島県を例に挙げると、把握されているだけで今なお約5万人が県内外での避難生活を続けており、また、避難指示の解除された地域では地域再建のための課題が山積しているにもかかわらず、賠償の打切りが先行している。とりわけ、事業者の営業損害賠償の打切りによるダメージは大きい。避難者の孤立化や、差別・いじめの問題、被災地に対する風評被害も深刻である。昨年は、集団訴訟において国や東京電力の責任を認める判決が相次いだ。その重大な責任を社会全体で直視し、原発事故被害者一人ひとりの生活を再建するための救済・賠償が実現されなければならない。


将来の災害対策という観点からは、東日本大震災における災害関連死の実態調査が行われておらず、教訓が客観化・総合化されていないことも問題である。


東日本大震災から7年が経過し、被災者の課題が個別化・深刻化している中、被災者一人ひとりの「人間の復興」を実現するためには、一人ひとりの被災状況を的確に把握し、様々な支援施策や福祉施策を組み合わせ、それに応じた個別の生活再建の計画を立て、人的支援も含めて総合的に被災者を支援する仕組み(災害ケースマネジメント)の実現が急務である。


当連合会は、被災地における「人間の復興」の実践として、法律相談等の法的支援、実態調査、政策提言等に取り組んできたところであるが、昨今の被害風化に抗い、全国各地の経験と英知を結集して支援を継続していく所存である。


  2018年(平成30年)3月11日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋