面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の福岡高裁判決についての会長談話


本年10月13日、福岡高等裁判所第4民事部は、面会室内での弁護人の写真撮影に関する国家賠償請求訴訟について、弁護人の控訴を棄却するとの判決を言い渡した。

この訴訟は、弁護人が小倉拘置支所の面会室内で被告人と接見した際、拘置支所職員から暴行を受け右頬を負傷したとの被告人の訴えを受け、証拠化する目的で負傷箇所を携帯電話で写真撮影したところ、同拘置支所の職員から、撮影した写真の消去を求められたこと等に対し、接見交通権や弁護活動の自由(弁護権)等を侵害するとして国家賠償を求めていた事件である。


本判決は、次の3点の理由を挙げて、面会室への撮影機器の持込みを一律に禁止する措置は刑事施設の長による施設管理権に基づく必要かつ合理的なものであり、一律禁止措置に違反した弁護人の携帯電話の持込み及び撮影行為は、逃亡又は罪証隠滅並びに刑事施設の適正な規律及び秩序の維持に支障を及ぼす具体的なおそれがある行為に当たると判示している。


① デジタルカメラ等で撮影された写真の電子データは拡大して面会室内の状況を詳細に分析することが可能であること、電子データが流出によって広く拡散する可能性や拡散した場合の回収が極めて困難であることなどに照らすと、刑事施設の保安又は警備上重大な支障をもたらすおそれがあること。


② 被疑者等の仕草等によって外部の特定の人物へ証拠隠滅を示唆することが可能となるおそれもあり、逃亡又は罪証隠滅のおそれがあること。


③ 被収容者の写真の電子データが流出し拡散した場合には、被収容者のプライバシーに対する重大な侵害が生ずるおそれがあること。


しかし、上記①及び②の理由は、極めて抽象的であり、逃亡又は罪証隠滅並びに刑事施設の適正な規律及び秩序の維持に支障を及ぼす「具体的なおそれ」とはならない。すなわち、弁護人が撮影箇所を被告人の身体の一部(本事案では負傷箇所)に限定した写真については、電子データを拡大したとしても面会室自体がほとんど写っていないのであるから、仮に外部への流出があったとしても、面会室の状況の分析は極めて困難である。まして、高度な守秘義務を負っている弁護人が写真の電子データを流出させるはずもない。また、撮影箇所を限定した写真では、被収容者が外部の特定の人物への証拠隠滅の示唆はできるものではない。さらに、上記③の理由については、面会室で被収容者を撮影することについて被収容者の同意がある場合には、そもそもプライバシー侵害にはならないという点を看過している。これらの点で、本判決は、弁護人の面会室内の写真撮影の禁止について何ら説得的な理由を提示していないのである。


加えて本判決は、弁護人の接見交通権の重要性を看過している。刑事訴訟法39条1項所定の「接見」は、身体を拘束された被疑者・被告人が弁護人からの助言を受け、有効に防御権を行使するための大前提であり、その際に得られた情報を記録化することは、弁護人にとっても弁護活動の出発点となるものである。有効な防御権の行使のためにいかなる方法で記録するかは原則として弁護人の裁量に委ねられるべきである。


刑事訴訟法39条1項は、「被告人等と弁護人とが口頭での打合せ及びこれに付随する証拠書類等の提示等を内容とする接見」の秘密性を保障しており(大阪地方裁判所平成16年3月9日判決・控訴審である大阪高等裁判所平成17年1月25日判決も同旨)、「接見」は口頭での意思連絡に限定されないのである。現実の弁護活動においては、接見は単に口頭での意思疎通にとどまらず、接見の際に得られた情報を記録することこそが重要であって、これも接見の一態様である。また、接見で得た情報の記録化を否定することは、情報の取得行為を否定することにも等しく、これを否定されれば、接見における情報収集及び記録化を前提とした公判廷等への顕出が極めて制限される結果となり、被疑者等や弁護人の防御権は大きく制限されることになる。ましてや、単なる刑事施設の内規に抵触することのみを理由に接見それ自体を制限できるとすることは、刑事施設において事実上接見交通権の内容・行使を自由に制約することに等しく、被疑者等の防御権の保障を形骸化させるものである。


当連合会は、2011年1月20日付け「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」、2013年9月2日付け「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての申入書」及び2016年6月17日付け会長談話のとおり、本判決を受けて、改めて関係各機関が弁護人と被疑者等との間の自由な接見交通を保障することを強く求めるものである。


 

  2017年(平成29年)10月13日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋