「大崎事件」再審開始決定に関する会長声明


鹿児島地方裁判所(冨田敦史裁判長)は、2017年(平成29年)6月28日、いわゆる大崎事件第3次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏等)につき、いずれの請求人についても、再審を開始する決定をした(以下「本件開始決定」という。)。

大崎事件は、1979年(昭和54年)10月、原口アヤ子氏が、原口氏の元夫、義弟との計3名で共謀して被害者を殺害し、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。逮捕時からの一貫した無罪主張にもかかわらず、確定審においては、「共犯者」とされた元夫、義弟、義弟の息子の3名の自白、「共犯者」の親族の供述と、これら供述の信用性を裏付ける法医学鑑定を主な証拠として、原口氏に対し、懲役10年の有罪判決が下された。

原口氏は、第1次再審請求において、2002年(平成14年)3月26日、一度は再審開始決定を勝ち取ったが、検察官抗告により同決定が取り消され、2006年(平成18年)には特別抗告も棄却され、再審請求棄却決定が確定した。その後の第2次再審請求では、即時抗告審より当連合会も支援してきたが、2015年(平成27年)には特別抗告も棄却され、またしても再審への扉は閉ざされた。

これに対して、第3次再審請求審の鹿児島地方裁判所は、新証拠として提出した法医学鑑定が、確定審における法医学鑑定の信用性を減殺すると位置づけた上で、第2次及び第3次再審請求における供述心理学鑑定の結果から、「共犯者」とされた3名の供述及び「共犯者」の親族の供述の信用性を否定して、新旧証拠の総合評価により、請求人の本件犯行への関与を認定した確定判決の事実認定には、合理的な疑いを生じさせるとして、再審の開始を決定した。

本件開始決定は、第2次及び第3次再審請求における供述心理学鑑定によって得られた供述分析結果について、「司法の場での総合的な信用性判断に際し、有意な情報」であると高く評価するなど、画期的な判断を示している。また、再審請求審における証拠開示についても積極的な姿勢を示し、検察官への証拠開示勧告により新たな写真約1300枚の印画を可能にするなど、適切な訴訟指揮を行ってきた。当連合会はこのような鹿児島地方裁判所の姿勢を、無辜の救済を旨とする再審制度の趣旨にのっとったものとして、高く評価するものである。

請求人の原口氏は、現在90歳の高齢となっており、再審無罪判決による権利救済には、もはや一刻の猶予も許されない。特に、大崎事件は既に一度再審開始が決定されていた事件である。当連合会は、検察官に対し、裁判所において二度にわたり再審開始決定が出された重みを理解し、本件開始決定に従って、即時抗告をすることなく、速やかに本件開始決定を確定させるよう求める。


 

  2017年(平成29年)6月28日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋