最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明
中央最低賃金審議会は、近々、厚生労働大臣に対し、本年度地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。昨年、同審議会は、全国加重平均25円の引上げ(全国加重平均823円)を答申し、これに基づき各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定された。
しかし、時給823円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約14万3000円、年収約171万円にしかならない。この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。日本の最低賃金は先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低い。例えば、フランスの最低賃金は9.76ユーロ(約1218円)、イギリスの最低賃金は7.5ポンド(25歳以上。約1083円)、ドイツの最低賃金は8.84ユーロ(約1103円)であり、日本円に換算するといずれも1000円を超えている。アメリカでも、15ドル(約1667円)への引上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが各地に広がっている(円換算は2017年5月下旬の為替レートで計算。)。
我が国の貧困率は過去最悪の16.1パーセントにまで達しており、貧困と格差の拡大は女性や若者に限らず、全世代で深刻化している。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は、最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっている。最低賃金の迅速かつ大幅な引上げが必要である。
最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも問題である。2016年度の最低賃金は、最も低い宮崎、沖縄で時給714円、最も高い東京で932円であり、218円もの開きがあった。しかも、このような地域間格差は年々拡大している。2006年の最低額と最高額の差は109円であったが、この10年間で地域間格差の額は2倍となっている。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう現象も見られ、労働力不足が深刻化している。地域経済の活性化のためにも、最低賃金の地域間格差の縮小は喫緊の課題である。
なお、最低賃金の大幅な引上げは、特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。政府は、最低賃金の引上げが困難な中小企業については、最低賃金の引上げを誘導するための補助金制度等の構築を検討すべきである。さらに、中小企業の生産性を高めるための施策や減税措置などが有機的に組み合わされることが必要である。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間での公正な取引が確保されるようにする必要もある。
当連合会は、2011年6月16日付け「最低賃金制度の運用に関する意見書」等を公表し、繰り返し、最低賃金額の大幅な引上げを求めてきたところであり、早急に1000円に引き上げることを求めている。2020年までに1000円にするという政府目標を達成するためには、1年当たり50円以上の引上げが必要であるから、中央最低賃金審議会は、本年度、全国全ての地域において、少なくとも50円以上の最低賃金の引上げを答申すべきである。
上記答申がなされた後に各地の実情に応じた審議が予定されている各地の地方最低賃金審議会においても、以上のような状況を踏まえ、最低賃金額の大幅な引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに、これにより地域経済の健全な発展を促すべきである。
2017年(平成29年)6月2日
日本弁護士連合会
会長 中本 和洋