弁護士会照会回答拒否に対する損害賠償請求訴訟の最高裁判決についての会長談話


本日、最高裁判所第三小法廷は、転居届情報について拒否回答を行った照会先に対する弁護士会の損害賠償請求を認めた名古屋高等裁判所の判決を破棄して、請求を認めないとする一方、報告義務確認請求について審理を尽くさせるため名古屋高裁に差し戻した。


本件は、所在不明の債務者の住居所を明らかにするため、郵便局に提出された転居届の新住所を弁護士会が照会したことに対して、日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)が当該情報の開示は通信の秘密及び信書の秘密に触れるとして回答を拒絶したことに対して、事件の依頼者及び愛知県弁護士会が違法な回答拒否であるとして損害賠償を求めた案件である。


弁護士法第23条の2に基づく弁護士会照会制度は、弁護士が依頼を受けた事件の処理に必要な情報・証拠を収集するために利用できる重要な手段であり、これにより真実を発見し正義に合致した解決を実現することにより司法制度の適正な運営を支える公益的な制度である。


弁護士会照会制度は、依頼を受けた弁護士の申出を受け、弁護士会が申出の必要性・相当性を審査した上で弁護士会の会長名義で照会がなされるものであって、その年間の受付件数は、2015年1年間で全国の弁護士会で17万6,334件に上り、また多くの照会先から回答がなされているところであり、司法制度の運営に重要な役割を果たしている。


本判決は、原審が肯定した弁護士会に対する賠償責任を、弁護士会には法律上保護される利益がないとして否定しているが、不当である。


なお、本判決は、弁護士会には損害賠償が認められないと判断したにとどまるものであり、弁護士会照会に対して回答に応じなくとも一切賠償責任を負わないと判断したものではない点に留意されるべきである。


報告義務確認請求については差戻しがなされており、差戻し審の審理については引き続き注視したい。


日本郵便に対しては、本判決が、照会を受けた照会先は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきとし、岡部喜代子裁判官の補足意見が、転居届けに係る情報について郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はないとしている。


上記趣旨に従い、日本郵便に対しては、具体的な利益衡量を行った上で回答に転じるように求める。


今後も当連合会は、弁護士会照会制度の適正な運営による信頼性の確保とともに、回答しやすい環境作りに努め、あわせて正当な理由のない回答拒否については回答が得られるように引き続き粘り強く取り組み、弁護士会照会制度が実効性のある制度として機能・発展していくよう全力を尽くす所存である。


 

  2016年(平成28年)10月18日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋