東住吉事件再審無罪判決に関する会長声明


本日、大阪地方裁判所第3刑事部は、いわゆる東住吉事件について、青木惠子氏と朴龍晧氏に対して、再審無罪判決を言い渡した。

本件は、1995年(平成7年)7月22日、大阪市東住吉区内の家屋で火災が発生し、同家屋に居住する青木氏の長女(当時、小学6年生)が亡くなった事件である。両氏は、保険金目的による放火殺人の容疑で同年9月10日に逮捕され、その後、無期懲役の判決が確定し、20年以上もの長きにわたって自由を奪われ、無実の罪を着せられてきた。当連合会は、長きにわたって無実を訴え続けてきた両氏の労苦をねぎらうとともに、両氏を支えてこられた御家族・支援者の方々、弁護団の活動に対して心から敬意を表するものである。

本日の判決は、本件火災が自然発火によるものであった可能性について、抽象的・非現実的なものにとどまらない合理的なものであると認めた。そして、両氏の自白については、再審請求(即時抗告審)において新たに開示された取調べ状況に関する証拠も踏まえて、取調官が両氏に対して客観的事実に反する事実を告げたり、過度の精神的圧迫を加えたりして取調べがなされたものであり、それによって両氏が虚偽の自白をせざるをえない状況に追い込まれたことを認めて、自白の任意性・特信性を否定し、確定審で採用された全ての自白調書の証拠能力を否定した。さらに、その中で、取調官が取調べ状況について虚偽の証言供述をしていたことも認定している。これらは、確定審の判断の誤りを明確に指摘するものであるとともに、本件の取調べが違法なものであったことを認めるものと評価できる。

ただ、取調べ状況に問題があったこと、両氏の自白は実現可能性に疑問があり、内容的にも不自然な点が多く、その信用性には疑問があったこと、自然発火の可能性も否定できないことなどは、確定審の段階でも指摘されており、再審手続で弁護団が提出した新証拠は、このような疑問を裏付けるものに過ぎない。そのことは、確定審で弁護団が提起していた疑問点が「合理的な疑い」であり、確定審段階で無罪判決が言い渡されるべきであったことを示しているのであって、確定審の裁判所の責任は重大である。

また、検察官は、再審公判では、合理的な疑いを超える程度の立証をすることが困難であるとして有罪主張を断念しつつも、無罪判決を求めるわけでもなく、かえって両氏に対する取調べに違法性はないと主張し、自然発火の可能性にも疑問を呈するなど、今なお従前の主張に固執しているようにも見受けられる。このような検察官の姿勢は、公益の代表者としてふさわしいとは言い難く、厳しく批判されなければならない。

本件においては、代用監獄における自白の強要、不当な接見制限、科学的知見の軽視や自白の偏重、検察官による証拠隠しなど、過去のえん罪事件で指摘された様々な問題点が顕著に現れている。そのことは、我が国の刑事司法制度が構造的な問題を抱えていることを示している。当連合会は、このような問題を克服するために、えん罪を防止するための制度改革の実現に向けて引き続き全力で取り組む所存である。

 
  

 2016年(平成28年)8月10日

日本弁護士連合会
会長 中本 和洋