面会室内での写真撮影等に関する国家賠償請求訴訟判決についての会長談話


本年5月13日、佐賀地方裁判所民事部は、弁護人である原告が佐賀少年刑務所の面会室内で被疑者と接見した際、被疑者が逮捕時の有形力行使により負傷したとの訴えを受け、負傷箇所を所携の携帯電話で写真撮影したところ、職員から接見を妨害され、撮影した写真の消去を求められたこと、及び後日被疑者の負傷箇所を撮影するためデジタルカメラを持参して接見を申し入れたところ、カメラを携帯しての敷地内への立入りを拒絶され、接見を拒否されたこと等に対し、これらの行為が接見交通権を侵害すること、及び接見内容が聞き取れる場所で職員が待機していたことが秘密交通権を侵害するとして国家賠償を求めていた事件について、秘密交通権侵害の争点について原告の請求を認め、国に対し金11万円の賠償を命じる判決を言い渡した。

同判決は、刑事訴訟法39条1項にいう「接見」を被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)と弁護人が面会する行為であるとし、これとは別に「面会を補助する行為」も刑事訴訟法39条1項による保障を受けるとしたが、面会室内で写真撮影を行うことは「面会を補助する行為」としての保障の範囲外であり、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「収容法」という。)117条、113条1項1号ロを根拠として、写真撮影行為がなされたことを理由に接見を制限することは適法であるとして、写真撮影行為を理由とした接見の制限、及び写真撮影行為がなされることを理由とした接見それ自体の拒否も適法であるとした。

当連合会は、2011年1月20日付け「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」において、弁護人が被疑者等との接見の際に「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限無く認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない」との意見を表明してきたところである。
 

現実の弁護活動においては、接見は単に口頭での意思疎通にとどまらず、接見の際に得られた情報を記録することも重要であって、これも接見の一態様である。接見時における写真撮影は、接見時の被疑者等に関する情報の取得・記録行為にほかならず、その意味で接見時にメモを作成することと本質的な差異はない。接見で得た情報の記録化を否定することは、情報の取得行為を否定することにも等しく、被疑者等の弁護人依頼権という憲法上の権利をも危うくしかねないものである。実務上も被疑者等との接見の際に写真撮影や録音録画が行えなければ、接見における情報収集及び記録化を前提とする公判廷等への顕出が極めて制限される結果となり、被疑者等や弁護人の防御権は大きく制限されることになる。

本判決が「面会を補助する行為」を面会そのものとは別に刑訴法39条1項による保障の対象としたことは一定程度評価しうるが、写真撮影という弁護活動において極めて有効な行為を保障の対象外としたことは弁護活動の実態を考慮しない不当なものである。

ましてや、規律侵害行為がなされる危険性を理由に接見それ自体を制限できるとすることは、刑事施設において事実上接見交通権の内容・行使を自由に制約することに等しく、被疑者等の防御権の保障を形骸化させるものである。


他方で、本件では、面会室内での弁護人と被疑者等の会話が待機場所に待機している職員に聞き取れる状況であったことが、審理過程での検証により明らかになったものであるが、本判決はこの点に関しては弁護人と被疑者の秘密交通権侵害を認めており、秘密交通権に対する最低限の配慮がなされていることは一定程度評価しうるものである。


当連合会は、上記意見書を踏まえ、2013年に、法務大臣、国家公安委員長、警察庁長官に対し、弁護人と被疑者等との接見の際に「当該弁護人等に対し、撮影機能を持つ機器及び録音機能を持つ機器の持ち込み並びに面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音を禁止したり、上記行為による録音又は写真撮影画像(録画を含む)の内容を検査したりすることがないよう求める」旨の申入書を提出しているところであるが、本判決を踏まえ、改めてその旨求めるとともに、併せて各地の刑事施設・留置施設においては弁護人と被疑者との会話内容が外部で待機する職員等に聞き取れるようなことが無いよう遮音措置や待機場所等の変更を講じるなど、速やかな対策を行うことを求めるものである。


 

 2016年(平成28年)5月13日

             日本弁護士連合会
           会長 中本 和洋