成年後見制度の利用の促進に関する法律に対する会長声明
本年4月8日、第190回通常国会において、成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下「法」という。)が成立した。
成年後見制度の利用に関しては、2000年の制度改正以来、判断能力に支援の必要な高齢者・障がい者等の権利擁護の制度として役割を果たしてきた一方、運用上種々の課題も出てきたことから、当連合会は2005年5月6日付け「成年後見制度に関する改善提言」等で、補助制度の活用、成年後見人等の担い手の拡充等を含めて改善すべき点を指摘するとともに、市民後見人の推進や、裁判所の人的・物的体制の拡張及びその予算措置や関係行政機関による親族後見人の指導助言のネットワークの構築等を求めてきた。今回の法がこれらの課題の多くを取り上げ、「成年被後見人等が、成年被後見人でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと」を基本理念として、必要な法制上又は財政上の措置等を速やかに講じなければならないと明記したことは(法第3条・第9条)、当連合会のこれまでの提言にも沿うものである。
特に法第11条が、「高齢者、障害者等の福祉に関する施策との有機的な連携」を図ることを明記した上で市町村長申立ての積極的活用(7号)、成年後見人報酬の公的援助(8号)に必要な措置を講ずることを基本方針として規定したことは、当連合会の上記改善提言の指摘とも軌を一にするものである。法が成年後見制度の果たすべき福祉的役割に着目したものであり、制度の利用が必要な人については資産の有無にかかわらず成年後見制度を利用できるよう、十分な財政上の措置が講じられるべきである。
また、法は、「成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきこと」を基本理念(法第3条)とし、さらに成年後見制度利用促進に関する施策の推進に当たり、「成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえる」との基本方針(法第11条柱書)を規定した。当連合会は、国が2014年1月20日に批准した障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)の完全実施のため、現行の成年後見制度について、包括的ではなく事柄ごとに代理・代行の権限を開始すべき点、期限を定め、定期的な見直しの機会を設けるべき点などにつき、制度改革と運用改善を求めている(2014年10月3日「障害者権利条約の完全実施を求める宣言」及び2015年10月2日「総合的な意思決定支援に関する制度整備を求める宣言」)。法の上記基本理念・基本方針に基づき、同条約の趣旨に沿って、当事者の自己決定の尊重の視点に立った成年後見制度の運用改善の具体的あり方やその限界について検討することが今後の緊急かつ重要な課題である。
当連合会としては、今後、成年後見制度利用促進委員会の意見を踏まえ、成年後見制度利用促進会議において作成される成年後見制度の利用促進に関する基本的な計画案において、上記の様々な課題を十分に反映した制度の構築や運用改善がなされるよう期待するとともに、そのために成年後見制度の一翼を担う専門職団体として、上記宣言に基づき今後の検討に積極的に参画し、尽力することをここに表明する。
2016年(平成28年)4月22日
日本弁護士連合会
会長 中本 和洋