商法(運送・海商関係)等の見直しに関する法制審議会の要綱採択に対する会長声明

2016年2月12日、法制審議会は、商法(運送・海商関係)等の見直しに関する要綱を取りまとめた。

 

要綱は、陸上、国内海上及び国内航空運送に適用される物品運送の総則規定、複合運送、定期傭船並びに海上運送状の規定を新設するなど、法制定以来の社会・経済情勢の変化へ対応している。また、消費者を含む荷送人の危険物通知義務違反の効果を過失推定責任とすること、国内海上物品運送人の堪航能力担保義務を国際海上物品運送人の責任と同様に過失責任とすることや船舶所有者の過失又は船員その他の使用人の悪意重過失により生じた損害の賠償責任に係る免責特約を無効とする旨の規律を削除するなど、荷主、運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整に対応している。さらに、共同海損や海難救助の規定などにつき、国際条約・規則を参考にするなど、海商法制に関する世界的な動向に対応している。要綱は、以上のとおり、法務大臣の諮問(諮問第99号)に則している点、評価できる。

 

また、当連合会が2015年5月8日に公表した「商法(運送・海商関係)等の改正に関する中間試案に対する意見書」で掲げた事項も取り入れ、生命又は身体の侵害に対する旅客運送人の責任を、合理的な例外を除いて片面的強行規定とすること、並びに船舶衝突から生じた人身損害賠償請求権の時効消滅期間を短期としない点及び船舶の双方過失により衝突した場合の積荷等の損害に対する賠償責任を分割責任としない点など、人命尊重並びに被害者及び消費者保護の点に配慮し、さらに海難救助においては環境保護の点に配慮している点は高く評価できる。

 

一方、船員の雇用契約債権に関する船舶先取特権の被担保債権の範囲や、船舶賃貸借の場合に船舶の利用について生じた先取特権が船舶所有者に対しても効力を生ずる旨の規律(第704条第2項)を民法上の動産先取特権に対して不適用とする改正については見送られた。これらの点については、研究者からも理論的な問題点が指摘されており、将来の更なる法改正を検討すべきである。

 

当連合会は、今次の要綱に係る改正法が国会での議決を経て速やかに成立・施行されることを期待するものである。

 

 

2016年(平成28年)2月12日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進